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――『PAY DAY』。
新人賞に投稿されたこの作品を読み終えたとき、僕はしばらく息を止めていた。審査員として、あくまで客観的に作品を評価する立場で読んでいたのだが、いつしか、この物語の熱量にあてられ、のめりこんでいたのだ。
投稿作の原稿は、たしかに荒削りだった。構成はどこかぎこちなく、映像的な文章はスタイリッシュではあるものの、あまり読みやすいものとはいえなかった。しかし、なにか目を離せなくなるような熱が、その原稿には確かにあった。
本作品の主人公である春樹は、圧倒的な弱者だ。異能の力はあるものの、正義のヒーローになることはできず、中途半端な悪の走狗となりはてている。ヒーローどころか、むしろヴィランのような立場なのだ。そんな彼の前に立ちはだかるのは、太陽のごとく輝く本物のヒーローなのである。そんな、『持たざる者』である主人公が、大切なものを守るために賭けられるものは、たった一つ――己の命しかない。
『PAY DAY』――この作品は、くそったれな世界で、命をチップがわりに戦う、少年少女たちの物語だ。文字通り、命賭けで世界に抗う、革命の物語だ。そして、現実の物語でもある。流れゆく日々の中で、つい忘れがちになるが、僕たちも時間=寿命を金に換えて生きている。魔女のような理不尽で邪悪な何かに、気付かぬうちに、少しずつその命を奪われている。けれど、心のどこかでは、命を存分に(あるいは乱暴に)賭けて戦ってみたい、そんな憧れを抱いているはずだ。
『PAY DAY』は、そんなあなたにこそ読んで欲しい作品である。この作品は、ライトノベルのジャンルでは、異能バトルに属するのだろう。だが、その本質は、ド直球の青春小説だ。
恋愛だけが青春ではない。青春とは、葛藤と後悔と、喪失と犠牲。二度と取り戻すことの出来ない大切な何か、そんな、ある種の苦々しさを孕んだ概念だ。その意味で、本作品は、スティーヴン・キング、ライトノベルでは、『ブギーポップ』シリーズの系譜にあるような作品なのだと思う。
さて、投稿作の段階ではまだ荒削りだった本作品は、改稿を経て生まれ変わった。
文章は読みやすく、構成は工夫され、よりエンタメ性を増した。しかし、根底に流れるテーマ、物語に託された切実な想いはそのままに、むしろその魅力を増している。
新たな才能の誕生に立ち会えたことを、嬉しく思う。
志瑞祐
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『腹をくくった悪者たち』の痛快さと悲哀に心が揺さぶられます。
その上で繰り出されるバトル、アクション、スペクタクル!
乗り心地の良い極上のジェットコースターとはこのことでしょう。誰にとっての青春もそうであるように、この日陰者(ヴィラン)たちの青春もまた文字通り一刻を争う。
だからこそ読み進めるごとに彼らのことが愛おしくなっていく。てにをは












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- ヒトの命をチップに換金する怪物。その手口は《フォールド》によって異なるが、顔を隠しているという性質から都市伝説のように語られることも多い。日々課せられる命のノルマに苦しみながらも、彼らは今日も生きるためにチップを稼ぐ。
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- 表裏の無い銀色の硬貨。体外に零れ落ちたヒトの命が持つ形で、その価値は失われた寿命と等価値である。《フォールド》は寿命をチップへと変換し、消費することで能力を行使することが出来る。
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- 対《フォールド》を想定して編成された警察組織。ブレイズマンとは協力関係にある。彼らに求められる役割は直接的な戦闘というよりも、「人命第一」の防衛戦である。