最優秀賞

海鳥東月の『でたらめ』な事情

史上最高の応募総数2332作、その頂点!

登場人物全員可愛い!

第17回MF文庫J新人賞最優秀賞作品!

両生類かえる illust 甘城なつき

Special Recognition Award 17th MF BUNKO J LIGHT NOVEL ROOKIE AWARD

3巻9月22日発売

海鳥東月の『でたらめ』な事情3
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STORY

「財布? 携帯? ぜんぜん違うよ。私が盗まれたのは――鉛筆さ」
仲良しのクラスの女子・奈良芳乃から突如、謎の相談を受けた海鳥東月。だがそれは奇妙奇天烈な事象の始まりに過ぎなかった。
海鳥の自宅に現れた謎のネコミミパーカー『でたらめちゃん』。
彼女によって引き起こされるトイレの貸し借り、裏切り、脅迫、掴み合いからの一転攻勢、そして全力の命乞い……全てを終えた後、でたらめちゃんは海鳥に告げてくる。
「海鳥さん。私と一緒に、嘘を殺してくれませんか?」
海鳥は訳も分からぬまま、嘘殺しに協力することになり!?
第17回MF文庫Jライトノベル新人賞〈最優秀賞〉作は奇妙奇天烈、だけど青春ストーリー?

第17回MF文庫Jライトノベル新人賞〈最優秀賞〉作は奇妙奇天烈、だけど青春ストーリー?

CHARACTER

  • 海鳥東月
                高校2年生の女子高生。身長170cmと同世代の女性と比べるとかなり高めだが、普段は目立つことを嫌う。
                ある特別な呪いにかかっており、日常生活では苦労している。
                性格自体は穏やかで、他人への思いやりに溢れている。
                ちなみにグラビアアイドル並の優れた身体特徴を有しているが、自分の魅力には気づいていない。
                「……ちょ、ちょっと、奈良ってば、何言ってるの?鉛筆が盗まれた?要するに、どこかで鉛筆を失くしたってこと?」
  • 奈良芳野
                海鳥のクラスメイト。同じく高校2年生。
                どんなときでも表情を浮かべず、ポーカーフェイスを貫いている。そのせいで黙っていると冷淡な人間に見られがちだが、実際はとてもお喋りで人懐こく、よく冗談を言って相手をからかう。
                容姿にはある特別な特徴があるが、ネタバレになるのでぜひ本編で確認して欲しい。
                「ああ、よく知っているとも。伊達に一年間も友達をやってないからね──キミほど素直で正直な女の子を、私は他に知らないよ。顔を見るだけで、何を考えているか大体分かっちゃうんだもの」
  • でたらめちゃん
                『嘘しか吐かないでたらめちゃん』と名乗り、海鳥の前に突如現れる。
                基本的に敬語を使うものの、いつも人を小馬鹿にしたようなニタニタ笑みを浮かべており、実際に人をよくからかう。
                その正体は人間ではなく、擬人化した嘘。擬人化した嘘ってなんだという疑問はこちらも本編で!
                趣味は料理。
                「ちょ、ちょちょちょちょっ、ちょっと待ってちょっと待って!ちょっと待ってください!ごめんなさい私が悪かったです!やめてください!」

SPECIAL TRIAL

本編第1章を特別公開!

1 えんぴつ事件


「泥棒だよ」
 奈良は出し抜けにそう言った。
「泥棒に遭ったみたいなんだ」
「…………え?」
 海鳥は驚いて、机の中身を鞄に仕舞う手を止める。
 とある県立高校の、二年生の教室。
 六時限目の授業が終わり、生徒たちがこぞって帰り支度を進める中で、二人の女子生徒だけが動きを止めていた。
 片方は奈良芳乃、短い髪の少女。
 もう片方は海鳥東月、長い髪の少女。
「……えっと、泥棒?」
 海鳥は言いながら、抱えていた鞄を、ひとまず椅子の下へと仕舞い込む。
「いきなりどうしたの? 泥棒ってことは、何かないの?」
「ないんじゃなくて盗まれたんだよ」
 食い気味に奈良は、くたびれた声で被せてきた。
「……な、なんだか深刻そうだね。財布か携帯でもなくなった?」
 心配そうに海鳥は尋ねたが、奈良は首を振ってそれを否定する。
「財布? 携帯? ぜんぜん違うよ。私が盗まれたのは──鉛筆さ・・・
「え?」
私は鉛筆を盗まれたのさ・・・・・・・・・・・
「…………は?」
 奈良の言葉に、海鳥はしばらく黙り込んだ。頬を引きつらせ、何も言えないという様子だった──が、やがて怪訝そうに眉をひそめて、
「……ちょ、ちょっと、奈良ってば、何言ってるの? 鉛筆が盗まれた・・・・・・・? 要するに、どこかで鉛筆を失くしたってこと?」
「違うよ海鳥。ないんじゃなくて、盗まれたんだって」
 またも奈良は食い気味に被せてくる。海鳥は困り果てたように頬を掻いた。
「……いや、意味不明なんだけど。なに? なにかの冗談?」
「微塵も冗談なんかじゃないよ、海鳥。私は大マジさ」
 奈良は、なにやらうんざりしたように鼻を鳴らす──鳴らしただけで、その表情に変化はない。僅かも、一ミリたりとも、変化がない。表情がないのだ・・・・・・・。緩まない頬は蝋で塗り固められたかのようだ。
 奈良芳乃。赤みがかった髪を首元の辺りで切り揃えた、線の細い、どこか冷たい雰囲気を纏った少女である。
「まあ、聞いてくれって海鳥……キミも承知の通り、私は根っからの鉛筆党さ。シャープペンシルなんて、そんな軟弱じゃない筆記用具は使わない。ただ鉛筆ってのは基本的に折れやすいから、しかも芯が折れちまうとどうしようもないから、常にペンケースの中にストックを切らさないようにしているのさ。きっちり、五本のストックをね。
 これは小学生の頃から続けている。そして私は物持ちが良い方で、自分の部屋でペンケースの中身を取り替えることはあっても、失くしたことはほとんどないんだ。高校に入学してからに限れば、それこそただの一度もね」
 だが、表情は乏しくとも、声音までもが冷ややかというわけではない。
 むしろ表情の無さと反比例するように、口調の方は軽やかである。淀みなく、情緒豊かに、彼女は喋る。喋りたくて仕方ないという風に。
「……はあ? な、なにそれ?」
 一方、そんな奈良の説明を受けた海鳥の困り顔は、いっそう酷くなっていた。
「つまり、自分はこれまで一度も鉛筆を失くしたことがないから……だから誰かに盗まれたに違いないって、奈良はそういうことを言いたいわけ?」
 海鳥東月。こちらは艶のある黒髪を腰の辺りまで伸ばした、目元の優しげな、いかにも温和そうな雰囲気の少女である。ちなみに高校二年生の女子としては相当の長身であり、その目線の位置は、奈良のそれと比較すると頭一つぶんほども高い。
「い、いやいや、流石にその理屈は無茶でしょ。奈良がどれだけ管理を徹底していたのかは知らないけど、筆記用具なんて普通に使っていれば落とすのが当たり前だし……そもそも鉛筆なんて、そんなどこの100円ショップでも買えるようなもの、誰もわざわざ盗むわけないし。盗まれるほどの需要がないってば」
「……まあ、確かにね」
 諭すような海鳥の物言いに、奈良は無表情で頷いて、
「海鳥の言う通りさ。失くさないように意識はしていたつもりだけど、なにかしらの抜本的な対策を講じていた訳でもないし……何より私には大量の鉛筆のストックがある。一本くらいなくなった所で、痛くも痒くもないよ。だから、ただ鉛筆がなくなっただけなら、私も『あ、うっかりしちまったな』って思う程度だったろうね。
 だからこの場合は、何が盗まれたかじゃない──どう盗まれたかが問題なんだ」
 奈良は自分の机の中から、ペンケースを引っ張り出していた。そして机上に、仕舞われていた鉛筆を取り出して並べる。
「……ん? いや、五本あるよ?」
 果たして、指折り数えた海鳥の言葉通り、並べられた鉛筆の数は五本。
「そうさ、鉛筆はちゃんと五本揃っている──だからこそ、盗まれたんだと確信できる」
「…………?」
「まあ、まずは触って確認してみなよ。それで全部わかる筈だからさ」
 海鳥は促されるまま、五本の内から一本の鉛筆を選び、手に取ってみる。
「どうだい?」
「……特に変わったところのない、普通の鉛筆だね」
「そうかい。じゃあ次は?」
 首を捻りながらも、海鳥はやはり促しに従う──そして二本目で、眉をひそめていた。
「……なにこれ? なんか微妙に凹んでる?」
 それは、鉛筆の中腹部分。見ただけではまず分からない、触らなければ気付くことの出来ないような、微かな凹みだった。
 海鳥はその後も、鉛筆を順々に確認していったが、最初の一本を除いて、すべて凹まされていた。凹みの場所はそれぞれ違うものの、触らなければ気付けない、というのはどれも同じだ。
「それね、私が凹ませたんだよ」海鳥が五本目を確認し終えるのを見計らって、奈良は語りかけてくる。「硬いところに打ち付けてね。ほら、鉛筆って軟弱だからさ」
「……意味が分からないよ。四本を凹ませて、一本だけは凹まさない。何のおまじない?」
「そう考えると難しいのかもしれないけどさ。つまり鉛筆は、最初は五本とも凹まされていたんだとしたら、どうだい?」
「……はあ?」
 海鳥はしばらく言葉の意味が分からないという風に、首を傾げていたが、「──っ!」突然ハッとしたように、その顔を強張らせていた。
「気付いたようだね、海鳥」
 無表情で、満足そうに鼻を鳴らして、奈良は言う。「私は昨夜、ペンケースの中の鉛筆、五本全てに細工をした。触らなければ気付けないような凹みを、それぞれ異なる場所につけた。ちゃんと凹んでいたことは、一時限目が始まる前に確認している。だけどこの通り、何故だか一本から、凹みが消えちまった。綺麗さっぱり跡形もなくね。
 傷や摩耗が自動で修復される、なんて機能は鉛筆にはないよ、当然ね……だからこの鉛筆は、私の鉛筆じゃない。銘柄、長さ、芯の尖り具合が、元々の鉛筆と全く変わらないだけの、違う鉛筆だ。それなら私が凹みを付けた鉛筆は、一体どこに行っちまった? どうして私のじゃない、私のにそっくりな鉛筆が、私のペンケースの中にあるんだ?」
 奈良は無造作に一本を手に取って、その凹みを撫でる。
すり替えられている・・・・・・・・・。私にばれないように、私の鉛筆を盗んだ人間が、どこかにいる。銘柄も、長さも、芯の尖り具合まで揃えるなんて、正気の沙汰じゃあない。そんなことをする人間は正気じゃない。正気じゃないその泥棒は、私の鉛筆を、一体どうして盗んだ? 筆記用具を家に忘れて困っていた? まさか! 変態だよ! 特上の変態さんだよ!」
 奈良は無表情で──心底気味悪そうな声色で、吐き捨てていた。
 対して、海鳥はぽかんと口を開けたまま、呆然と固まっている。
「最初はね、違和感だったんだ。つい一時間前に握っていた鉛筆と、今握っている鉛筆が、どこか『違っている』って感覚。具体的に、どこがどうとは言えないんだけどさ。もちろん気のせいだと思ったよ。そういうことは去年の後半に、五回くらいはあったけれど、気にしなかった。よしんばそんな変態がいるとしても、私に気付かれないようにそっくりの鉛筆とすり替えるなんて、到底無理だと思ったからね」
「…………」
「だから面白半分だった。正気の沙汰じゃないにしても、到底無理に思えるにしても──物理的に不可能って訳じゃあない。もしかしたら変態は、いるのかもしれない。物は試しで、確認してみようと思い立った。後で友達への、笑い話にでもするつもりでね。名探偵を気取って、罠を張ったのさ。気付かれる可能性は低いと踏んでいたぜ。常軌を逸してまで、私に気付かれないことに神経を張り巡らせている泥棒だ。きっと恐ろしく慎重な人間に違いない。だからこそ、犯行に及ぶ瞬間だけは、大胆にならざるを得ない。モタモタしていたら人目についちまうからね。目印を確認している暇は、ないだろう」
 奈良はそこで言葉を切って、一呼吸入れた。かなり疲れている様子だったが、やはり表情には出ない。
「事実に気付いたのは昼休みだ。愕然としたよ。どれほど気持ち悪かったか、とても筆舌には尽くせない。泥棒……仮に『鉛筆泥棒』と名付けようか。奴さんの変態性は超弩級だ。
 ちなみに、言わずもがなのことだとは思うけれど、これはキミをからかう目的で行った、自作自演とかじゃ決してないからね? そりゃあ確かに、私はそういう冗談大好きだけどさ。今回はマジだ。冗談であって欲しいと切に思うけれど、残念ながら大マジなんだ。こう見えて、中々にグロッキーなんだぜ、今の私は」
「…………っ! な、なにそれ……!?」
 と、ようやく海鳥は口を開いていた。いつの間にか、その表情からは完全に血の気が失せている。たった今奈良から告げられた事実に、よほどの衝撃を受けているらしい。
「え、鉛筆泥棒って……つまり奈良は、そんな気色の悪いストーカーみたいな人が、このクラスの中にいるって言いたいの!?」
「残念ながら、その可能性は高いと言わざるを得ないよね」奈良はつまらなそうな顔のまま、悲しそうに息を漏らして、「私だってクラスメイトを疑いたくはないけれど……そんな神懸かり的な犯行が出来るのだとしたら、鉛筆泥棒はある程度、私と距離の近い人間に限られるだろう。それこそ、こんな風に人目を気にせず話していれば、うっかり犯人の耳に届いちまうかもしれないくらいには」
 奈良は帰り支度を進める、大勢のクラスメイトを見回して、「だからこそ……これは……揺さぶりの意味もあるのさ。慎重であるということは、イコール臆病であるということだからね。私が犯行に気付いている、なんて話を間近でされて、平静を保てる筈がない。必ずボロを出す──ま、実際は帰り支度で忙しくて、誰も私たちの話し声なんて聞こえていないみたいだけど」
 アテが外れた、という風に肩を竦めて、溜め息を漏らす奈良。一方の海鳥は尚もキョロキョロと、どこか怯えた様子で、視線を泳がせ続けている。
「犯人はこの中にいる。その事実に、気色悪さに、私は昼休みからこっち、ずっとぼーっとしていたんだけどさ……放課後前の今になって、ようやく落ち着いたよ」
 奈良は言いながら、依然として落ち着きのない海鳥の瞳を見据えて、
「そんなわけで、私は鉛筆泥棒を見つけ出そうと思う。海鳥にも、ぜひ協力してほしい」
「……え?」
「そんな得体の知れないストーカーが近くにいるとか、普通に不愉快だからね。存在に気付いてしまった以上、放置は出来ないよ。それに、今は鉛筆を盗まれるくらいの被害で済んでいるけれど、この先もそうだとは限らないわけだし」
 奈良は億劫そうに息をついて、「とはいえ、この段階で先生に相談しても、まともに取り合ってはくれないだろうから──『お前の勘違いじゃないのか?』って言われるだけだろうから、私たちだけで何とかするしかないんだよね。自力で犯人を特定して、変態行為を止めさせないといけない。まったく面倒なことこの上ないよ。そんな気色悪い変態のために、こっちの労力を割かないといけないなんてさ」
「…………はあ」
「だからこそ目撃証言が欲しいんだよ。海鳥、キミは私の隣の席だろう。どうだい? 昼休み、私の机の周りで、怪しい動きをしている奴はいなかったかい? あるいは、この鉛筆と同じ種類の鉛筆を、どこかで見たりはしなかったかい?」
「……うーん」
 尋ねられて、海鳥は思案気に眉間を摘まんでいた。何やら言葉を選んでいる風である。
「……ごめん奈良。悪いけど、力になれそうもないよ。犯人は見てないし、昼休み以降に、その盗まれた鉛筆とやらを見た覚えもないから」
「……そうかい」奈良は脱力した風に肩を落として、「残念だよ。まあ、そう簡単に尻尾を掴める筈もないんだけどさ」
「……でも、奈良の言う通りだね。これはのっぴきならない事態だと思うよ」
 と、顔を青くしたままの海鳥は、ひとりでに頷いて、
「今回はこれくらいで済んだから良かったけど、次もそうだとは限らない。ちゃんと対策を練らないとね……」
 そうブツブツと呟きを漏らしていた。その声音といい、表情といい、真剣そのものである。彼女なりに、級友である奈良の身に降りかかった怪事件について、一生懸命に考えを巡らせているらしい。
 そんな海鳥の姿を見て、奈良は無表情のまま、どこか嬉しそうに鼻を鳴らしてみせる。
「……ふふっ。やっぱり、キミに相談したのは正解だったみたいだね、海鳥」
「え?」
「そこまで真剣に私の身を案じてくれる友達なんて、キミくらいだよ。鉛筆泥棒の件は、あくまでキミにとっては他人事の筈なのに、さっきからまるで自分のことのように思い悩んでくれているじゃないか。こんな良い友達に恵まれて、私は本当に幸せものだ」
「…………奈良」
 奈良の言葉に、海鳥は決まりが悪そうに視線を逸らして、
「や、やめてよ……私、そんな良いものじゃないってば。ただ、他人に嘘を吐けないから、思ったことが全部表情に出ちゃうってだけで」
「ああ、よく知っているとも。伊達に一年間も友達をやってないからね──キミほど素直で正直な女の子を、私は他に知らないよ。顔を見るだけで、何を考えているか大体分かっちゃうんだもの」
 からかうような口調で、尚も海鳥を誉めそやす奈良。もはや言うまでもなく、その間も表情は、無表情のままで固定されている。
 表情豊かな海鳥東月と、どんなときでも無表情の奈良芳乃──どこまでも対照的な二人である。
「これでもう少し付き合いが良ければ、友達として完璧なんだけどね。海鳥ったら、私がたまに『外で遊ぼうぜ』って誘っても、ぜんぜん予定を合わせてくれないんだもの。毎週毎週、どんだけバイトのシフトを入れているんだよって感じ!」
「……あ、あはは。それは本当にごめんね、奈良。私のバイト先、物凄く人手が足りていなくて、いつも殺人的に忙しいからさ。平日は学校がある分、土日とか祝日とかは、出来るだけ出勤できるようにしたくて」
「まったく、とことんまでお人よしなんだから、海鳥は。そんな店側の都合を、キミが気にする必要なんてどこにもないのにさ。なにより勿体ないってば。たった一回きりの高校生活を、そんなバイト三昧に費やしちゃうだなんて。
 ……ま、私は別にそれでもいいんだけどね。こうして教室で、キミといちゃつけるだけでも十分楽しいから」
 などと言いながら、奈良は片手を伸ばして、海鳥の長い髪を出し抜けに摘まんでくる。
「きゃっ!? ちょ、ちょっと、なにするの奈良?」
「ふふっ、また放課後はキミと会えなくなるわけだからね。今の内に、この黒髪の感触をたっぷり楽しんでおこうかなって。
 私、一日に四回はキミの髪を触らないと、気持ちが落ち着かなくなるんだよね〜。なにせ一年生のときから同じクラスで、ずっと隣同士の席で、毎日のようにキミの髪を触ってきたわけだからさ。キミと会えない土日なんかは、この黒髪ロングを思い出して切なくなるものさ。ある種の禁断症状ってやつかな」
「……っ! も、もう、毎度変な冗談やめてってば、奈良! 私の髪なんかで、そんな変な症状起こすわけないでしょ!? いつも言ってることだけど!」
「ははっ、今さらこれくらいでイチイチ照れるなって。私たち、昨日今日の付き合いじゃないんだから」
 などと奈良は冗談めかしたように言いつつも、しばらくの間、好き放題に海鳥の髪をもてあそんでいたが……やがて満足し切ったという風に、毛先を指先から離して、
「まあ、冗談はこれくらいにして──鉛筆泥棒の件については、じっくり進めることにするよ。最悪でも四月中に解決できるなら十分だろうさ。流石に高校二年のゴールデンウイークに、こんな気色の悪い懸案事項を持ち越したくはないからね」
「……う、うん、そうだね」
 奈良に乱された髪の毛を整えつつ、海鳥も言葉を返す。
「正直私も、どれくらい力になれるかは分からないんだけどさ。ずっとこんな風に仲良くしてくれている奈良の一大事だし、手伝える範囲で手伝わせてもらうよ。もしもその鉛筆泥棒とやらが私の目の前に現れたら、この手でぶっ飛ばしてあげる」
「ははっ、頼もしいね、怖いくらいだ。流石は私の親友だ……そう言えば海鳥。世界で一番怖いもの知らずな泥棒って、何だと思う?」
「……? なにそれ?」
 尋ねられて、海鳥は少し考えてみたが、答えらしいものは浮かばなかった。
「ちょっと分からないかな。教えてよ奈良」
「パトカー泥棒」
 奈良は得意げに言い放つ。それは確かに怖いもの知らずだと、海鳥は閉口した。

 ◇◇◇◇
 海鳥は帰宅した。
 304号室の扉を開けて、玄関に入り、靴を脱ぎながら電灯のスイッチを入れる。まだ日没前とはいえ、窓がカーテンで覆われているため、灯りがないととても暗いのだ。
 玄関から進んですぐ右に、簡素な台所と冷蔵庫がある。左にはトイレと浴室・脱衣所が並ぶ。曲がらずに真っ直ぐ行けば、ベッドとクローゼットと、後は丸テーブルくらいしか置いていないリビングに辿り着く。リビングの突き当たりに備え付けられた窓からは、隣のビルのコンクリート壁くらいしか見えないため、カーテンが開かれることは滅多にない。
 このマンションの一室が、海鳥東月の生活空間だった。彼女は去年の春ごろから、ここで一人暮らしをしている。
「……ふぅ」
 海鳥は靴を脱いでから、一息ついた。「……ふぅぅぅぅぅ」そのまま、床に倒れ込む。
「……ふふっ、あはははははっ!」
 やがて、薄気味悪く笑い始めた。
「あははははっ! ああもうっ──興奮し過ぎて、死ぬかと思ったよ!」
 彼女は仰向けのまま、鞄の口に手を突っ込んで、ごそごそと、やがて『何か』を引っ張り出した──紙袋である。国語辞典くらいの大きさで、セロハンテープで口が閉じられている。海鳥はテープを剥がして、袋を逆さにした。中身が落ちてくる。
落ちてきた鉛筆を見つめて・・・・・・・・・・・・、海鳥は恍惚とした表情を浮かべる。
「……ああっ、奈良! 奈良! 奈良ぁ……!」
 海鳥は鉛筆を握りしめ、愛おしそうにクラスメイトの名前を連呼する。
「しかしまさか、奈良があそこまで勘付いているとは思わなかったよ。一年生のときはまるで気付く様子がなかったから、油断した……」
 そのまま立ち上がることなく海鳥は、床を這い始めた。「だけど奈良。これが試験だったら、奈良は落第なんだよ? 100点満点で、5点って所だね」這って、冷蔵庫の方へと近づいていく。
「人間なんだから、ミスはする。しない方がおかしい」
 海鳥は冷蔵庫の扉に手を掛ける──一気に開く──そこにあったのは。
 整然と陳列された、数えきれないほどの鉛筆だった。
一年間で・・・・100本も鉛筆を盗んだら・・・・・・・・・・・・、五回くらいは、失敗することもあるってね」
 だらしなく表情を崩しながら、海鳥はようやく立ち上がる。
「ちょっと早いけど、ごはんにしようか。気分がいいし、それに鮮度が命だしね」
 冷蔵庫の扉が閉じられる。その後、海鳥は鉛筆を握ったまま、制服から着替えることもせず、台所の前へと移動していた。
「素材がいいんだから、シンプルでいいよね」
 あらかじめ炊いていた白米を、海鳥は炊飯器からよそう。そしてプラスチック製の箸と、何故か台所に置かれていた『鉛筆削り』を持って、リビングの丸テーブルへと向かう。
 足をだらけさせて座り、鉛筆削りを茶碗の上に掲げる。小型の鉛筆削りである。蓋をしなければ削った芯が外に溢れてしまう構造だが、海鳥によって既に蓋は外されており、剥き出しの状態だった。
 そして奈良芳乃の鉛筆を、削り始めた。
 鉛筆の削りカスが、白米に降りかかっていく。芯の先が尖り切るまで削る。それ以上削りにくくなると、机でわざと芯の先を叩き折って、また削りやすくする。その繰り返し。削りカスで白米の部分が見えなくなるまで繰り返し。最後に、机上に転がる黒鉛の欠片をパラパラとまぶして、海鳥は満足そうに息を吐いた。
「やっぱり金曜日の夜は、奈良の鉛筆かけごはんに限るよ」
 いただきますをしてから、海鳥は、鉛筆の削りカスまみれの白米を、口の中へとかきこみ始める。
 黒鉛の何とも言えない苦味と、カスの部分のシャリシャリとした食感が口いっぱいに広がる。とても不味い筈だし、何より確実に身体に悪い。しかし当人は幸せそうである。もぐもぐ、と栗鼠のように口を動かし、噛み砕かれた鉛筆を喉の奥へと流し込んでいく。
「ふーっ。ご馳走様!」
 やがて1分ほどで平らげると、海鳥は満足そうな声を上げ、大きく伸びをしていた。
「そうは言ってもなぁ。春休みに、大分冷蔵庫の中身を消費しちゃったからなぁ。ハイペースですり替えたい所なんだけど……今日で警戒されただろうしなぁ。しばらくは控えるべきなんだろうな、やっぱり」
 しかし、いざとなれば『保存用』を切り崩せばいいだけなので、海鳥は言うほど慌てていない──彼女は盗んできた鉛筆を、おおよそ二種類に分けて保管している。『賞味用』と『保存用』だ。最初はどの鉛筆も『賞味用』であり、半分ほど食べた所で『保存用』に切り替わる。冷蔵庫に保管されている鉛筆の中で、最も古い『保存用』の鉛筆は、去年の五月に盗んだものである。
 そして彼女が背を向けているベッド、その収納スペースには、大量の新品鉛筆がストックされている。『すり替え用』の鉛筆である。新学期に入ったらすり替えまくろうと、春休み、近くの100円ショップで揃えたのだ。そういった意味でも、海鳥は肩透かしを食らった格好になってしまった。新学期が始まって、まだちょっと・・・・しか盗めていないのに。
「……悪いとは、悪いとは思ってるんだよぉ、奈良」
 ニタニタと、やはり気味の悪い笑みを浮かべながら、海鳥は呟く。
「でも、ごめん……どうしても自分を抑えられないんだ。私、嘘が吐けないからさ」
 ──ピンポーン。
 と、そこで唐突に、海鳥の部屋のインターホンが鳴らされていた。
「…………?」
 誰だろう? 海鳥は考える。宅配を頼んだ覚えはないし、彼女は近所付き合いなど一切していないので近隣住民ということも考えにくい。新聞のセールスか何かだろうか?
「……ドアスコープを覗いて、面倒くさそうだったら居留守を使えばいいか」
 海鳥はそんな風に結論付けて、立ち上がり、玄関の方へ向かう。苛立たし気な足取りである。折角のお愉しみの、余韻の時間を邪魔されて、内心穏やかではないのだ。
「……え?」
 しかしスコープを覗いた瞬間、彼女の中から、そんな苛立ちは消え失せてしまっていた。
 ドアの前に立っていたのは、頭からネコミミの生えた、半泣きの女の子だったからである。
「……えっと」
 落ち着いて、海鳥は少女を観察してみる。当たり前だが、実際にネコミミが頭から生えている訳ではなかった。そういう『服』だ。パーカーのフードの部分に、ネコのミミが付いている。随分と可愛らしい服だ、と海鳥は素直にそう思った。
 それからフードの下、少女の髪を見て面食らう。髪型が奇抜だったのではない。やや癖っ毛気味の、ありふれた普通のショートカットだ──奇抜なのは、その髪の色だ。毛先まで真っ白け、一本残らず総白髪なのである。染めているのだろうか?
 そして何よりも、少女は半泣きだった。スカートの裾を摘まみながら、縋り付くような目でドアスコープを見つめて来ている。向こう側から室内を覗くことは、スコープの構造上出来ないのだが、それほどまでに切羽詰まっているということらしい。
「……ちょっ、どうしたんですか?」
 海鳥は堪らずドアを開け、謎の少女に呼びかけていた。
「……う、うああ」
 果たして少女は、救われたような眼差しを海鳥に向けて、両肩を震わせる。
「……あ、あの、トイレを、トイレを貸していただけないでしょうか?」
「……ああ」
 その一言で、海鳥はおおよその事情を理解していた。
「わ、私、この階に住んでいる者なんですけど、鍵を失くしちゃって……親はまだ帰ってこないし、この辺近くにコンビニもないし、もうどうしようもなくて……そ、それで」
「うん、もう分かったよ。大丈夫だから」
 海鳥は穏やかな笑みを浮かべつつ、少女に囁きかける。
「辛かったね。よく頑張ったね。トイレ、貸してあげるから、どうぞ上がって」
「──! あ、ありがとうございます!」
 少女は弾かれたように頭を下げていた。そして相当余裕がないのか、駆けこむようにドアの内側へと入ってくる──まあ大丈夫だろうと、海鳥はドアを閉めながら考える。確かにこの部屋には、見られたら困る鉛筆がある。しかし困るのは、あくまでも被害者に見られた場合だ。言ってしまえば、ただ鉛筆を冷蔵庫に入れているだけなのだ。よしんば見られたとしても、変わった人だと思われるだけだろう。そもそもトイレを貸すだけなのだから、冷蔵庫の中身なんて見られる心配もないのだが。
「え、ええと、ええと、それで、トイレは……っ!」
「ああ、ごめんごめん。玄関入ってすぐなんだ。今開けるね」
 海鳥は、玄関から見て左手に設置された引き戸を急いでスライドさせ、電灯のスイッチを入れる。
「はい、遠慮せずに使ってくれたらいいから……」と、そこで海鳥は、僅かに疑問を抱く。「……?」この少女はたった今、『自分はこの階に住んでいる者だ』と名乗った。しかし、こんな奇抜な髪色をした女の子が、本当にこの階に住んでいただろうか? いくら近所付き合いに無頓着な海鳥でも、ここまで人目を引く隣人、一度でも見かけたら絶対に忘れないと思うのだが……。「……って、あれ? それ何?」
 海鳥はぼんやりとした口調で、少女が握りしめている『それ』を指差して問い掛ける。
 『それ』は刃渡りが10㎝ほどの、包丁だった。
 少女は海鳥の問いに答えないまま、包丁の切っ先を彼女に向ける。
「動かないでください。大人しくしないのなら殺します」
 その声に、先ほどまでの慌てた様子はない。どこまでも無機質で、恐ろしく冷たい声音だ。海鳥はしばらく、その言葉が少女の口から発せられたものだと、理解出来なかった。
「殺されたくないなら、こちらの指示に従って下さい──トイレの個室の中へどうぞ」
「……え? え?」
「急いで下さい。五秒以内に従わなければ、従う意志のないものと見做しますよ」
「…………」
 海鳥は呆然としたまま、少女に言われるがまま、トイレの個室にふらふらと入る。少女もその後に続いた。引き戸が閉められる。
「そこに座って下さい」
 また促され、海鳥はやはり素直に従う。ちょこん、と蓋を開けた便座の上に腰を下ろす。スカートをたくし上げずに便座に座るとは、変な感じだと、そんなことを考えながら。
「……? えっと、その、おしっこは大丈夫なの?」
「それは嘘です。スムーズにあなたの部屋に侵入するため、嘘を吐かせてもらいました」
「……はぁ。え、あ、そうなんだ?」
 要領の得ない受け答えに終始する海鳥を、少女は包丁の切っ先を向けたまま、冷めた目で見つめている。
「自己紹介が遅れてしまいましたね。名乗りましょう。私は女性の味方と言います」
「…………は?」
「まあ非常に簡単に、ざっくばらんに説明しますと、私はか弱いがゆえに涙する、あらゆる女性の味方なのです。痴漢とかセクハラとか、現代社会は女性に対する害で溢れていますからね。そういう悪を、天に代わって成敗するのがこの私。各地を転々としつつ、毎日のように女性の敵を葬り続けています」
「…………?」
 そう丁寧に名乗られても、意味不明すぎて、ただでさえ混乱の只中にある海鳥の脳では上手く処理することが出来ない。
「意味が分からない、という顔をされていますね。別に理解していただかなくても結構ですけど──この女性の敵め。この私が来たからには、今日が年貢の納め時ですよ、海鳥東月さん」
「…………え?」
「海鳥東月。16歳、兵庫県立いすずの宮高校に通う二年生。四月一日生まれ。身長170㎝、体重××㎏、スリーサイズは上から98─63─92。神戸市中央区にて出生後、幼少期に母方の実家のある姫路市に移り住み、高校入学のタイミングで単身神戸市に戻ってきた。両親は既に離婚しており、家族は母親のみ。学業成績は基本的に良好で、中高通してクラブに所属した経験はなし。市内のネットカフェで週5日ほどアルバイトをしている。趣味は深夜放送のラジオを聴くこと──全部、合っていますよね?」
「…………う、うぇぇぇ?」
 そう一気に捲し立てられて、海鳥は言葉にならない呻き声を漏らしていた。
「え? な、なんでそんなこと知ってるの……!? す、スリーサイズまで!?」依然として訳は分からないのだが、それでも言い知れない恐怖が湧き上がってくるのを、海鳥は感じていた。「ま、まさか……ストーカー!?」
「違います。ただ調べたというだけです。というか、ストーカーはあなたの方でしょう」
「……へ?」
「海鳥東月さん。あなたは去年の春ごろから、慢性的に、クラスメイトである奈良芳乃さんの鉛筆を盗んで食べていますね?」
「──っ!?」
 海鳥の表情がいっそう強張る。受けた衝撃は、今しがた個人情報を読み上げられたときの比ではない。「う、嘘でしょ!? な、ななな、なんで知ってるの!?」
「ふん。その反応を見る限り、やはり事実のようですね」
 謎の少女──女性の味方は、海鳥を睨みつけて言う。「いいですか? あなたのやったことは、疑いようのないストーカー行為です。女性の尊厳を著しく踏みにじっています。とうてい許容できるものではありません。女性の味方として、あなたを成敗します──今からこの包丁であなたの喉笛を引っ掻いてあげるので、覚悟してください」
「……っっ!? っ! っ! ──っ!?」
 そこで初めて海鳥は、状況を理解した。
 さっぱりな部分はそれでも大量に残っていたが、最低限理解しなければいけないことは理解出来た──この女の子はどういうわけか、海鳥のことを調べ上げている。奈良から鉛筆を盗んでいることまで知っている。そして何よりも、完全・完璧にホンモノ・・・・だ。どうやら海鳥はそれと知らずに、とんでもない異常者を部屋の中に招き入れてしまったらしい。
 言動は意味不明で、手には刃渡り10㎝の包丁。そんな危険極まりない見ず知らずの少女と、トイレの個室という密室に、二人きりで押し込められている。よく考えるまでもなく、絶体絶命の状況である。
「ちょ、ちょっと待って……! あなた、本当に何なの!? 私の喉を包丁で引っ掻くって……そ、そんなこと、本気で──」
「本気かどうか、信じる、信じないはあなたの自由です。どうせ、これが喉元に食い込んだときに分かることですから」
「…………」海鳥は顔を引きつらせて、頭上の包丁を見つめる。個室内の照明を受けてギラギラと輝いているそれは、とても偽物には見えない。
「自分の置かれた状況が理解出来ましたか? この包丁を恐ろしく思うなら、くれぐれも私に歯向かおうなんて気は起こさないことですね、海鳥東月さん。変態ストーカーさん」
 女性の味方は冷淡に言いつつ、手元の包丁をくるくると弄んでみせる。
「まったく、私もこれまで数々の女性の敵を葬ってきましたけど、あなたほど業の深い変態はかつていませんでしたよ。それはもちろん、ただの同性愛というのなら何の問題もないでしょうが……同級生の鉛筆をこっそり持ち帰って、ごはんにかけて食べてしまうなんてね。よくそんな気色の悪い行為を思い付くものです」
「………っ! だ、だから、どうしてそのことを!?」
 訳が分からない、という風に唇を噛む海鳥。「奈良の鉛筆の件については、誰にも教えてないし、誰にもバレてない筈なのに……ど、どうやって……!」
「そんなことをあなたが知る必要はありません……自分の行いを知られたことがそんなに信じられませんか? 別に私はいいですけどね。今すぐに、この部屋の冷蔵庫に押し込まれている、大量の鉛筆を検めてしまっても」
「──~~っ!?」
 海鳥はあまりの衝撃に、二の句を継げなくなってしまう。本当に、何もかも知られてしまっている。海鳥が冷蔵庫に鉛筆をストックしていることなんて、実際にこの部屋を調べなければ分かりようのないことなのに。一体誰が、どうして、どうやって……しかし、そんな海鳥の困惑などお構いなしに、女性の味方は尚も言葉を続けてくる。
「あなたはただ、私の質問に素直に答えていればいいんです。もしかしたらこちらにも、事実の誤認があるかもしれませんからね。いくら女性の敵とはいえ、万が一にも情状酌量の余地があると判断されれば、あなたを見逃すことも、もとい更生に期待することも、やぶさかではありません」
「……? し、質問って?」
「単なる事実確認です──いいですか? 私は何も、あなたが鉛筆を盗んで食べていること自体を問題視しているわけではないのですよ。代わりに新品とすり替えている以上、奈良芳乃さん本人に実害は出ていないわけですからね。問題なのは、あくまでそれも氷山の一角に過ぎない、ということです」
「……え?」
「この期に及んですっとぼけないでください。筆記用具を盗んで食べてしまうくらい変態的な欲求を募らせている相手に対して、筆記用具を食べる以上のことはしていない、なんてことがあるわけないでしょう。どうせ、盗撮やらつきまといやら体操服を盗んだりやら、もっと洒落にならないようなストーカー行為を繰り返してきたに決まっています」
 女性の味方は、海鳥を睨む目つきをいっそう険しくさせて、
「だとすれば、やはりあなたは女性の敵です。情状酌量の余地なんてひとかけらもありません。いずれ奈良芳乃さんへの直接的な行為に及ぶ前に、取り返しのつかないことになる前に──この場で、息の根を止めてしまうべきでしょうね」
「──ひっ!?」
 女性の味方にそう凄まれて、言葉にならない悲鳴を漏らす海鳥。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 息の根を止めるなんて、そんな──」
「命乞いなんてしても無意味ですよ。私は卑劣な変態に対しては、一切の容赦をしないと決めていますから──まあ、よく考えたらあなた女性ですし、女性の味方である私が手出し出来る存在では本来ないんですけど。しかしあなたは既に、女性である前に女性の敵ですからね。女性の敵は女性であっても殺します。男を葬るよりは気分が悪いですが、これも世の女性のためです、止むを得ません」
 などと、何やら破綻したようなことを言いながら、女性の味方は包丁を振りかざし、
「で、どうなんですか? 今しがた私の言ったことに対して、何か反論できることは?」
「──? え、ええと……」
「……はい。さようなら海鳥東月さん。また来世で──」
「──!? ち、違う! 全然違うっ! 違いまくるっ!」
 海鳥の喉元に突き刺さる寸前で包丁が止められた。女性の味方は残念そうに舌打ちして、
「違う? どういう意味ですか?」
「と、盗撮もつきまといも体操服泥棒も、私はそんなこと一切してない! あなた、どうやって私の鉛筆泥棒のことを知ったのか知らないけど、何か勘違いしてるんじゃない!?」
「勘違い?」
「別に私は同性愛者じゃない! な、奈良のことを『特別な意味』で好きだとか、そういう感情は私の中に一ミリもないから!」
 あらん限りの力で海鳥は叫んでいた。彼女の必死の金切り声が、個室の中に反響する。
「……はあ? どういうことですか? 奈良芳乃さんに対して特別な感情を向けていないって、そんな筈ないでしょう。それならどうして、あなたは好きでもない相手の私物を食べようと──」
「し、私物じゃないよ! 鉛筆だよ! 私は奈良の鉛筆を食べたかったの!」
 女性の味方の言葉を遮るようにして、海鳥は言い放つ。「より正確に言うならば、私は奈良の鉛筆に付着した、奈良の『指紋』を食べたかったんだよ……」
「『指紋』?」
「うん……私はその、なんていうか……」と、そこで海鳥は、何やら恥ずかしそうに視線を彷徨わせて、「他人の『指紋』を食べるのが、好きっていうか……子供の頃からの趣味なんだよね……」
「…………は?」
 呆気に取られたように固まる女性の味方。そんな彼女の反応にも構わず、海鳥は何かにとりつかれたように、滔々と言葉を連ねていく。
「え、鉛筆って、毎日使うものでしょ? つまり鉛筆には、持ち主の指紋が染み付いている、染み込んでいるってことなんだよね。ご、極上だよ。そりゃあ鉛筆自体は、あんまり美味しくないんだけど、大量の指紋を食べているって思えば味なんて大して気にもならないし……それこそ小学生の頃なんか、クラス中の鉛筆を盗んで食べていたものだったしね。加減っていうものを知らなかったからさ。流石に高校生にもなれば、分別が付くから、今の私は奈良から年間100本の鉛筆を盗む程度なんだけど……」
「……はあ、なるほど」
 海鳥の饒舌な捲し立てに、女性の味方は気まずそうな表情を浮かべて、視線を逸らしていた。「つまり、自分には『他人の指紋を食べる』というマニアックな趣味があるだけで、奈良芳乃さん個人に対して特別な感情を持っているわけではないと。だから本格的に悪質なストーカー行為に手を染めたこともないと、そう言いたいわけですね?」
「う、うん……私が奈良に対してやった後ろめたい行為は、鉛筆を盗んで食べたことだけだよ」海鳥は豊かな胸を張って言う。「そ、それだって、別に奈良本人に迷惑をかけているわけじゃないしね。ちゃんと代わりの新品とすり替えているし、それも全部私のアルバイト代で賄ったものだし。そりゃあ確かに、世間的にアブノーマルな趣味だって自覚はあるけどさ。それだけで悪質なストーカー呼ばわりされるのは、甚だ心外っていうか……」
「…………」
 女性の味方はしばらくの間、思案するように押し黙った。そして、
「確かに、それが本当なら、何も殺すことはないかもしれませんね。行為そのものの異常さはともかく、あくまで現段階で、奈良さんに直接的な被害は出ていないわけですから」
「──!? で、でしょ!? だったら──」
「──それが本当だとしたら、ね」
 頸動脈を撫でるようにして、包丁の切っ先が海鳥の首元に当てられる。
「ひっ!?」
「鉛筆を盗んだのは事実なのでしょう? つまり泥棒です。泥棒の言葉なんて信じられません」
「な、なにそれ!? ちゃんと質問に答えたら、助けてくれるんじゃ──」
「残念でしたね。私はそもそも女性の敵の卑劣な言い逃れに耳を貸す気なんて、これっぽっちもなかったんですよ。所詮あなたたちは、嘘しか吐かないんですから」
「──~~~~っ」
 話が通じない。頭がおかしい。最初から分かり切っていたことだった。その瞬間、海鳥の脳裏に浮かんでいたのは、もうずっと会っていない母の顔──そして奈良の顔。
「──っ、嘘じゃない!」
 果たして、深く考える間もなく海鳥は、頭に浮かんだままの言葉を口に出していた。
「私の言葉に嘘なんて一つもない! 私は生まれてこの方、嘘を吐いたことがないから!」
 ぴたり、と包丁が止められる。
「……嘘を吐いたことがない? なんですか、その嘘吐きの常套句は?」
「違う! そういうことじゃなくて……だから私は・・・・・嘘を吐くことが出来ないの・・・・・・・・・・・・!」
「……はぁ?」
「性分とか、性格とか、主義とか……そういうものに関係なく、『呪い』みたいなもので、私は嘘を吐くことが出来ないんだよ!」
「……いや、意味が分からないです」
「──っ、え、ええと、疾患! 疾患だよ! 疾患だと思ってくれれば分かりやすいよ!」
「…………」海鳥の必死の訴えに、女性の味方はみたび沈黙する。「……疾患。つまり自分は、そういう病気だと言いたいんですか?」
「う、うん! と言っても、あらゆる病院が私には匙を投げたから、原因は不明だけどね。どのお医者さんも、私が『嘘を吐けないという嘘』を吐いているだけだって診断したから……」
「私もそうとしか思えません」
「お、思わないで! 信じて!」
「……まあ、あるかもしれないとは、思いますけどね。そういう疾患。思ったことしか言えない、みたいな」
「……ちょっと違うよ。言葉に出せないだけじゃない。表情に出したり、文字に表したりするのでさえ無理だよ」
「……? 一気に分からなくなりました。表情の方はともかく、文字にも表せないってどういうことですか? 腕が痺れて、動かなくなるとでも?」
「…………っ! こ、これは私の感覚的な話だから、どうにも伝えにくいんだけど……テレビゲームに、コマンドってあるでしょ? 『たたかう』とか『にげる』とか。『たたかう』を選べば攻撃出来る。だけどコマンドにない行動は取れない。『命乞いする』とか『仲間を差し出す』とかは、出来ない。それと同じだよ。私には『嘘を吐く』って選択肢が、そもそもない。だから嘘を吐けない……わ、我ながらふわふわした説明だとは思うけど、なんとなくでも理解して欲しいとしか言えない!」
「……百歩譲ってその話を信じるとして、疑問ですね。嘘が書けない、つまり真実しか書けないというのなら、テストなんて毎回100点が当たり前なのでは?」
「それは……私はあくまで嘘を吐けないだけで、『真実』しか言えない訳じゃないからね。だから英単語とか、間違って覚えていたとしたら、普通にそのまま書いて不正解になる。ただ、わざと間違えたりは出来ない。つまり偽ることが出来ないってこと」
「では、私があなたに催眠術なりなんなりを掛けて、無理やり書かせる場合なんかは──」
「と、当然嘘を吐けるよ。それは私が書いているんじゃないから。私の意識が介在する場合に限り、私は嘘が吐けないの」
「……はぁ」
 女性の味方はぽりぽりと、包丁を持っていない方の手で頭を掻く。
「なんていうか、私も色んな女性の敵を成敗して来ましたけれど、こんなエキセントリックな命乞いをされたのは初めてですよ。しかも咄嗟に考えたにしては、設定が細かいし……ですが海鳥東月さん」そこで女性の味方は、意味深な笑みを浮かべて、「残念ながら、信じることは出来ません。何故ならそれは嘘だからです。あなたの言葉は矛盾しています」
「──!? え、は、矛盾……?」
「ついさきほど、放課後前の教室で、あなたは奈良芳乃さんと会話していましたね? そこであなたは彼女に対して、『自分は鉛筆泥棒じゃない』という、100%の嘘を吐いていました。これについてはどう説明しますか?」
「……は?」
 女性の味方の言葉に、海鳥は表情を失っていた。「……え? ど、どういうこと? どうしてあなたが、私と奈良のさっきの教室でのやり取りについて知っているの?」
「そんなこと、今はどうだっていいでしょう。それより早く釈明してください」
「…………? ?」
 海鳥はいよいよ困惑していた。もはや訳が分からない。海鳥の個人情報や、奈良の鉛筆を盗んでいることについては、まだ調べれば分かることなのかもしれないが……教室での会話なんて、その場に居合わせでもしない限り絶対に分かりようのないことの筈だ。まさか海鳥の身体に盗聴器でも仕掛けていたのだろうか? だとしたら、この少女の方が海鳥よりも、よっぽどストーカーだと思うけれど……。
「……ま、まあいいや。理屈はさっぱり分からないけど、さっきの会話をあなたが知ってくれているっていうなら、むしろ好都合だよ。僥倖と言ってもいいくらい」
「……?」
「流石の私も震えたよ……なんたって私はあの絶体絶命の窮地を、嘘を吐かずに・・・・・・乗り切ったんだからね」
「……何を言っているんですか?」
「ついさっきのことだしさ。あなたも、会話の細かい部分まで憶えているでしょ? 一つ一つ確認していこうよ」
「……はあ」
「まず冒頭だね──奈良が『泥棒に遭った』なんて言い出した時は、本当に何かなくなったんだろうと思ったよ。声がくたびれていたからさ。奈良はよく冗談を言って私をからかうけど、そういうときのあの子はもっと楽しそうにしているから……で、盗まれたのが鉛筆って分かった瞬間にぞっとした。しばらく何も言えなかった。まさかバレた? だけど冷静になって考えてみれば、私の犯行の筈がなかった。だって鉛筆が『ない』んだから。私がやったのはあくまですり替えであって、窃盗じゃないからね。奈良はあくまで偶発的に鉛筆を失くして、大騒ぎしているだけなんだと、私はそう判断したよ」
「…………」
「今にして思えば迂闊としか言いようがないけどね。たとえ『絶対に違う』って確信があるにしても、『鉛筆』に関する話題が出た時点で、私は警戒を解くべきじゃなかったんだ……だから奈良が全てに気付いていると知った時には、無様を晒したよ」
「……まさかあのとき、あなたがやたらと周囲を気にして挙動不審だったのは」
「うん。奈良の読みは当たっていた。鉛筆泥棒は慎重で臆病、奈良本人に犯行を気付かれていると知れば、まず平静を保てない・・・・・・・・・必ずボロを出す・・・・・・・──犯人を揺さぶるってあの子の狙いは、見事に的中した訳だね」
「……奈良芳乃さんの鉛筆泥棒に対する所見を聞いたあとに、あなたが顔を青くして何やら考え込んでいたのも、そういう理由だ、と言いたいんですね?」
「私にとってものっぴきならない状況だったからね。そりゃあ考え込まずにはいられないよ。当の奈良はそれを、『自分のために親身になって考え込んでくれているだけ』って勘違いしてくれたみたいだったけど」
「……しかしあなたは、決定的に嘘を吐いています。奈良さんに目撃証言を求められたときです。『犯人は知らない』、『鉛筆は見ていない』と答えていました。これは嘘以外の何物でもありません」
「違うよ。『犯人は知らない』じゃなく、『犯人を見ていない』だよ。『鉛筆は見ていない』の方も、『昼休み以降鉛筆は見ていない』が正しいし」
「同じことじゃないですか?」
「だから違うんだよ。私は確かに犯人の正体を知っているけど、見たことはない。犯行を行う私を、私が見ることは、不可能だからね。それから昼休み以降鉛筆を見ていないのも本当だよ。奈良の鉛筆は、私が一時限目の終わりにすり替えてから、誰の目にも触れず、ずっと私の鞄の中にあったんだから」
「…………」
「それから私は、最後にこうも言ったね。鉛筆泥棒が目の前に現れたら、ぶっ飛ばしてあげるって。そりゃぶっ飛ばしてあげるよ。私の目の前に、私が現れることがあったらね」
「……うーん」
 女性の味方は唸った。実際にそう言っていたのを思い出したのだろう。「……しかし、本当にあなたが嘘を吐けない、本音しか言えないというのなら、一体どうやって日常生活を過ごしているというんですか? あなたのその疾患は、対人関係においては洒落にならないハンディキャップの筈です。それなのにあなたは、大した軋轢を生じさせることもなく、普通に学園生活を送ることが出来ています。説明がつきません」
「……。うん、確かにね。あなたの言う通り、他人と普通の人間関係を築こうとする上で、これほど不便な体質ってそうはないと思うよ。例えば小中学生の頃なんか、そのせいでクラスメイトから散々嫌われたり、仲間はずれにされたりして、もう散々だったもの……」
 そう、不便などというものではない。
 絶対に嘘を吐くことが出来ない、というのが実際にどういうことなのか、知りたいなら、試しに一週間でも『嘘を吐かずに』過ごしてみればいい。すぐにその恐ろしさ、生き辛さを嫌というほど実感できることだろう。他人を一切気遣えない、隠し事ができない、思ったままのことしか言えない……そんな人間が、人間関係を上手く構築できる筈がない。
 ──海鳥さんってさ、いい子だけど、ちょっと空気読めないところあるよね。
 ──分かる〜。場の雰囲気とかぜんぜん考えてくれないよね、あの子。
 ──皆で『この動画面白いよね!』って話しているときでも、海鳥さんに感想聞いたら、『ごめん、私それよく分からないかも……』とか平気で答えてくるし。
 ──ちょっと誰かの悪口で盛り上がっているときでも、『ごめん、私そういうのあんまり好きじゃないから……』とか言って、ぜんぜん話に入ってこないし。
 ──せめてもうちょっと角の立たない言い方すればいいのにさ。
 ──馬鹿正直っていうか……普通にちょっとウザイよね、あの子。
 そんな風に海鳥は周囲から疎んじられ、集団から爪はじきにされるようにして生きてきたのだった。一人ぼっちでいても、誰かに気遣ってもらえることはない。そもそも海鳥自身、他人と合わせられないのが排斥の原因なのだから、誰も彼女を可哀想だとは思わない。
「だから私は、集団で上手くやっていくための『処世術』を身に付けたんだよ……」
「『処世術』?」
「確かに私は嘘が吐けないよ。それは世間一般では美徳とされていることだけど、実際のところは害でしかない。普通の人が私と付き合ったら、きっとすぐに私のことを大嫌いになる。イライラして、会話する気も起きなくなる……だから私は、嫌われないために、普通に他人と接しないことにしたんだ」
「……要するに、どういうことですか?」
「『ある一定値』を越えて仲の良い相手、つまり、『友達』を作らないってことだよ。他人と仲良くはしても、絶対に『深い関係』にはならない。だって、自分にとってどうでもいい人間を、わざわざ嫌いになる相手なんていないからさ」
「…………はあ?」
 と、女性の味方は驚いたような表情で、海鳥を見つめていた。
「友達を作らないって、では今のあなたには一人も友達がいないと?」
「うん、そうだよ。そう言ってるでしょ?」
「……奈良芳乃さんのことも、あなたは友達と思っていないと?」
「…………」
 海鳥は言われて──やり切れないような、切なげな笑みを浮かべた。
「奈良とはね、仲良しだよ。大の仲良し。これまでの人生で、こんなに他人と仲良くなったことはないってくらい……だけどまあ、『友達』ではないかな。あくまでも、『ある一定値』の、ギリギリ下の関係でしかないよ。教室ではよく話すけど、放課後や休日一緒に出掛けたり、下の名前で呼び合ったりするような間柄でもないしね。
 少なくとも私は、あの子を友達だと思ったことは一度もないよ。だって、友達の鉛筆なんて、私は盗まないもの」
「…………」
「だから私は、奈良の鉛筆さえ食べられるなら、それだけで満足なんだよ……」
 海鳥は静かな声音で語る。「どれだけ一人ぼっちで寂しくても、息苦しくても、そういう『息抜き』の時間があるなら、私は我慢できるから。その人自身と接するより、その人の『指紋』とだけ接していた方が、余計な気を遣わなくて、楽でいいから……」
「……病んでいますね」
 女性の味方は諭すように言う。
「あなた、とても病んでいますよ」
「知ってるよ。正直者が病んでないわけないんだから」
「……ええ、よく分かりました」
 と、女性の味方は、なにやら納得したように頷いていた。そして包丁を、海鳥の首筋から離して、「なるほど、あなたは本当に嘘が吐けないのでしょうね。信じましょう。それほどまでに、あなたの話は真に迫っていました」
「……え?」
 女性の味方の言葉に、海鳥はぽかんと口を開けて固まる。「……え? あの……し、信じてくれたの?」
「はい」
「──! じゃ、じゃあ、見逃してくれるの!?」
「いいえ」
 女性の味方は微笑んで言う。「やはりあなたには、ここで死んでもらいます」
「……え?」
「すぐに楽にしてあげますから、ご心配なく」
「え、えええええ!? いや、あの……」海鳥は震えながら尋ねる。「し、信じてくれたんじゃないの?」
「はい、信じました。だからこそです。あなたは危険です。今はまだ、殺すほどではなくても──いずれそうなる。今の内に、その芽を摘み取っておかなくてはいけません」
 女性の味方は表情を完全に消し、包丁を振りかぶる。海鳥は声にならない悲鳴を上げた──殺される。なんとか助けて貰おうとして、沢山喋って、目論見が成功したにも拘わらず、殺されてしまうのだ。もし自分が死んだら、あの冷蔵庫の中身はどうなるのだろう? 奈良が全てを知ったら、絶句するだろうか? ──死にたくない死にたくない死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!
 頭の中を『死にたくない』だけが支配した瞬間、海鳥は自らの脳をフル回転させ、思考を始めていた。死にたくないなら立ち向かうしかない。相手は自分よりも小柄だ。普通に取っ組み合いをすれば恐らく負けないだろう。問題は包丁だ。取っ組み合う前にあれで刺されてしまえば一巻の終わりだ。だから怯ませる必要がある。どうやって? この異常者をどうやって怯ませる? 海鳥の自力ではまず不可能だろう。であれば……環境を利用する? 地の利を活かすというのはどうだ? ここは海鳥の部屋だ。海鳥が毎日使うトイレだ。いかに女性の味方と言えど、トイレの中までは調べていない筈。何が使える? 何を使えば、この絶体絶命の窮地を切り抜けられる?
 ──そうだ!
 海鳥は考え終わると同時に、行動を開始する──座っていた便座から転げ落ちる。
「──!? な、何を!?」
 驚く女性の味方に、海鳥は不敵な笑みを向ける。そして床に転がったまま、右手の人差し指で、ウォシュレットのスイッチを押し込んでいた。
「喰らえっ! このトイレのウォシュレットの水圧は最大だぁぁぁっ!」
 海鳥自身、試したことはなかったが、女性の味方が立っている場所くらいまでなら水が届く筈だった。そして女性の味方が怯んだ隙に、体当たりして組み伏せる。それから包丁を奪ってしまえば、こちらのもの──という算段である。
「…………あ、あれ?」
 しかし果たして、水は出なかった。
 海鳥は知る由もないことだったが、ウォシュレットには人が座っているかどうか確認するセンサーが付けられているのだ。人が座っていない時は、スイッチを押しても水は出ない。
「…………」
 気の毒そうな目で、女性の味方は海鳥を見つめていた。海鳥は真っ青になる。もう何も考えられない。
「く、くそぉぉぉぉぉぉ!」
 叫びながら、喚きながら、海鳥は半狂乱で女性の味方に突進する。包丁のことなど見えてすらいない。目を血走らせた彼女には、もはや何も見えない。
 目前に包丁の切っ先が迫っていようと、彼女は止まらない。
「──っ!?」
女性の味方が慌てて・・・・・・・・・包丁を手放さなければ・・・・・・・・・・──海鳥の身体の何処かには刺さっていただろう。
 そして包丁を手放した女性の味方は、驚くほどあっさりと、海鳥の体当たりを喰らってしまう。女子とはいえ、170㎝××㎏の全力の体当たりである。女性の味方はドアに叩きつけられ、そのまま床に倒れ込んでいた。
「うわぁぁぁぁっ! うわぁぁぁぁっ!」
 海鳥は尚も動きを止めない。女性の味方の小柄な体躯に馬乗りになり、彼女の手から包丁を奪い取ろうとする──そこで彼女が、既に包丁を持っていないことに気付く。体当たりの衝撃で落としたのだろうと、海鳥は考え、辺りを見渡す。果たして包丁は、ちょうど海鳥の手の届くところに転がっていた。彼女は慌ててそれを拾い、やっと一息ついてから……股下で寝そべる少女を睨み付けていた。
「はぁっ……はぁっ……」
 海鳥は息を切らせながら、包丁を構える。「散々、好き勝手やってくれたね、女性の味方さん。こんな簡単に形勢がひっくり返るなら、最初からこうすればよかったよ。命乞いする必要なんて全くなかった……それで今度は、あなたが命乞いする番だ」
 海鳥は極度の興奮状態にある。頭に血が上り、今にも包丁を振り下ろしかねない。それでもかろうじて思い止まっているのは、相手が自分よりも年下の少女だから、だろうか?
「まあでも、命乞いなんてしないよね? だってあなたは、女性の味方なんだもんね? まさか自分の敵に向かって、『助けて下さい』なんて言える訳がないよ。誇りを捨てるくらいなら死を選ぶ、あなたはそういう人間なんだから」
 煽るように海鳥は言うが、しかし挑発が目的なのではない。海鳥自身、『このままでは相手を刺してしまう自分』に気付いていた。だから少しでも会話をすることで、頭を冷やそうとしているのだ。
 一方で、女性の味方は──
「ちょ、ちょちょちょちょっ、ちょっと待ってちょっと待って! ちょっと待ってください! ごめんなさい私が悪かったです! やめてください!」
「…………え?」
 全力の命乞いだった。
「こ、殺すとか言われて熱くなっちゃったんですか? やだなぁ、ジョークじゃないですか! 可愛い女の子の可愛い冗談ですよ! そんなに目くじら立てることもないでしょ? えへへ、えへ…………」
「…………は?」
「……あ、あの、取り敢えず上からどいてもらえませんか? ちょっと重いっていうか、怖いっていうか…………い、いえなんでもないです、変なこと言ってすいません。だからその、せめて包丁だけは下ろして欲しいかなって……」
 少女の口調は、先ほどまでと打って変わって、抑揚が激しい。よく言えば明るい、悪く言えば頭の悪そうな喋り方である。
「…………その、一応確認なんですけど。まさか、まさか海鳥さんがそんなことするとは思ってないんですけど…………痛いこととか、しませんよね? その包丁で、痛いこととか、しませんよね? ね? …………えへへ、私痛いの、嫌だから」
「…………」
「……ご、ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさい! ゆ、許してください! 今までのこと全部謝ります! だから許して! 刺さないでぇ!」
 ──なんだこれは? 海鳥は眩暈がしてくる思いだった。
「……ちょ、ちょっと待ってよ。あなた、女性の味方なんでしょ? 今まで何人もの女性の敵を葬ってきて、今も私を殺そうとしたわけだよね? それが、いざ自分がピンチになった途端に、変わり身早すぎない?」
「……か、変わり身なんてしていませんよ。だって私、そもそも女性の味方じゃないんですから・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「…………は?」
「じょ、女性の味方なんて、そんな人は、この世のどこにもいないんです・・・・・・・・・・・・・・私がでっちあげたんです・・・・・・・・・・・。て、適当に考えたキャラ設定だから、細部に矛盾とかあったと思いますけど、むしろ話の辻褄とかほどよく合わない方が、よりホンモノ・・・・っぽくていいかなって」
「…………??」
 少女が何を言っているのか、海鳥にはよく分からない。「…………女性の味方じゃないのなら、あなたは一体誰なの?」
「わ、私ですか? 私は──」
 引きつった笑みを浮かべつつ、少女は答える。
「──私は、でたらめちゃんって言います」
「……?」
「でたらめちゃん。ちゃんまで含めて名前です。平仮名七文字きっかりで、でたらめちゃんです」
「……なんて?」
 外国人? と海鳥は一瞬考える──いや平仮名七文字とか言っているし。でたらめちゃん? どこから苗字でどこから名前? キラキラしているってレベルじゃないけれど。
でたらめちゃんは嘘しか吐けない・・・・・・・・・・・・・・・。だから海鳥さんを殺すつもりというのは嘘だし、女性の味方というのも嘘です。私は嘘しか吐けないんです。嘘しか吐けないでたらめちゃんです」
「…………なにそれ? ふざけてるの?」
 海鳥は苛立ったように言い、少女の眼前で包丁を振りかざしてみせた。
「きゃ、きゃあぁぁぁ!? な、何恐ろしいことするんですか!? やめて下さい!」
「じゃあふざけないで、ちゃんと本名を教えなさい。日本人で、そんなとんちんかんな名前の人がいる筈ないでしょう?」
「……い、いや、そんなこと言われても。私、これが本名なのでぇ」
 少女──自称・でたらめちゃんは怯えを目に浮かべながら、尚もそんな言葉を返してくる。本気で言っているのか、やはりふざけているのか……海鳥には後者としか思えないのだが、よくよく考えてみれば、今は本名などさして重要でもなかった。とりあえず呼ぶ名前さえあればいいのだ。確認すべきことは、他にある。
「じゃあ、まあ……でたらめちゃんだっけ? あなたが女性の味方じゃないんだとしたら、今まで何人もの人間を葬って来たっていうのも、嘘なの?」
「は、はい! 嘘です! 人殺しなんて、そんな恐ろしい真似出来ません!」
「……私を殺すっていうのも?」
「嘘です! 嘘八百です!」
「…………」元気よく叫んでくるでたらめちゃんに、海鳥は言葉を失う。信じられない思いだった。あれほどまでに自分を怯えさせた少女が、あからさまに媚びたような笑みでこちらを見上げて来ている。先ほどまでの言動は、全て嘘なのだと言う。ふざけるなという思いが、海鳥の中でふつふつと湧き上がった。冗談じゃない。こっちは目の前で包丁を振り回されて、危うく腰を抜かすところだったというのに。
「……意味が分からないよ。なんでそんな嘘吐くの? いきなり人の部屋に押し入ってきて、本物の包丁で『殺す』なんて言って脅かすなんて、子供の悪戯のレベルを超えてるよ。っていうかそもそも、女性の味方として私を成敗しに来たんじゃないのなら、あなたは一体何をしにここに来たの? 目的はなに?」
「……『テスト』ですよ」
「え?」
「『海鳥東月は嘘を吐けない』。私はそれを知っていました。そして、それが本当なのか確かめるために、今日この部屋を訪ねたんです」
 いつの間にかでたらめちゃんは、なにやら意味深な表情を浮かべて、海鳥を見上げて来ていた。「より正確に言えば、嘘を吐けない海鳥東月という人間が、果たしてこの私の『パートナー』たり得るのかどうか、『テスト』しに来たんですけどね」
「……『テスト』? 『パートナー』? 何の話?」
「つまり、さっきまでの私のでたらめな言動はすべて、海鳥さんをわざと動揺させて、その『本質』を暴き出すための演技だった、というわけですよ……そして実際に、その試みは成功しました。やはりあなたは、私の『パートナー』に適格な人物のようです。
 単刀直入に言います──海鳥さん。私と一緒に、嘘を殺してくれませんか?」
 海鳥の方を真っ直ぐに見据えたまま、でたらめちゃんは朗々と告げてくるのだった。
「…………。は? なんて?」
 しばしの沈黙のあと、海鳥は眉をひそめて、
嘘を・・殺す・・……? なにそれ? どういう意味?」
「そのままの意味ですよ。嘘を吐けない海鳥東月と、嘘しか吐かないでたらめちゃん、この二人でタッグを組んで、この世に蔓延る邪悪な嘘どもを根こそぎやっつけてしまおうというお話です」
「…………?」
「今はまだ、その自覚がないかもしれませんが……海鳥さん、あなたには、類稀な〈嘘殺し〉の才能があります。その力を、私にお貸しいただきたいのです」
「…………いやだから、意味がぜんぜん分からないんだけど」
 まるで要領を得ないでたらめちゃんの話に、海鳥は困惑の息を漏らす。まさかこの期に及んでまた訳の分からないことを宣って、海鳥を煙に巻こうとでもしているのだろうか?
「……はあ、もういいよ。これ以上あなたの与太話に付き合っていても埒が明かなそうだし。とりあえず、警察は呼ばせてもらうからね」
「……え? 警察? なんでですか?」
「当たり前でしょ。今回あなたがやったことは、子供の悪戯じゃすまされない、完全な犯罪行為なんだから。ちゃんと捕まって、ちゃんと怒られなさい。学校の先生や、それから保護者の方にもね」
「…………」
 諭すような海鳥の言葉に、でたらめちゃんは困ったような顔をして、「……いや、海鳥さん。大変申し上げにくいんですけど、警察とか呼んでも時間の無駄だと思いますよ? 私はなんていうか、そういう国家権力みたいなものが有効な存在ではないので……」
「……はあ? なに言ってるの? そんなわけないでしょ? 言っとくけど、今さらしおらしく謝ったって私は許してあげないからね」
 まるで取りつく島もなく、スカートのポケットからスマートフォンを取り出して、画面を操作し始める海鳥。そんな彼女を、でたらめちゃんは何やら歯がゆそうな顔で見上げていたが……やがて意を決したように、唇を噛み締めて、
「……致し方ないですね。痛いのは、出来れば避けたいところなんですけど」
「……?」
「海鳥さん。その包丁で、今すぐに私を刺してください」
「…………は?」
 その突拍子もない物言いに、海鳥は思わずスマートフォンを床に落としてしまっていた。
「どうか、ひと思いにお願いします。手首のあたりをちょっと切りつけるくらいでいいんですけど……これが一番、海鳥さんに理解してもらいやすい方法だと思うので」
「…………え? いや、やらないけど、え?」
 海鳥は困惑したように、でたらめちゃんを見つめ返す。いきなり何を言い出すのだろう? まさか海鳥を傷害犯に仕立て上げて、今回の事件を有耶無耶にしようとでも? そんな滅茶苦茶な……。
「そうですか。やっていただけませんか……ならば、かくなる上は!」
「──わっ!? な、何するの!」
 海鳥の悲鳴が上がる。何を思ったのか、でたらめちゃんが無理やり身体を起こして、海鳥に掴みかかってきたのだ。
「暴れないでください! 下手に動くと怪我をしますよ!」
「……っ! そ、それはこっちの台詞だよ! あなたまさか、こんな力技でここから逃げ出そうとでも……!?」
「違います! いいから大人しくしてください!」
「で、できるわけないでしょ! このっ、このっ……!」
 ……。……。そうしてしばらくの間、両者の間で揉みあい、へし合いが続いた結果──
「──ぎゃっ!?」
 ──ふとした拍子に、でたらめちゃんの腹部めがけて、海鳥の持つ包丁が深々と突き刺さってしまっていた。
「……う、い、痛い……」
「……!? きゃぁぁぁぁぁ!?」
 海鳥は包丁から手を離し、悲鳴を上げる。でたらめちゃんの腹部からは、どくどくと、大量の血液が流れ出て来ている。
「……お、お腹は予想外……予想外に痛い……」
「い、いやああああ!? ちょっ、救急車! 救急車呼ばないと!」
 ぐるぐると目を回しながら、その場にへたり込んでしまった海鳥に、でたらめちゃんは引きつった笑みを浮かべて、
「……だ、大丈夫です。痛い、だけなんで」
「……ば、馬鹿言わないでよ。大丈夫な訳ないでしょ?」
「…………いいえ、大丈夫ですよ。だって、ほら」
 でたらめちゃんは腹部に刺さった包丁をぐっと握りしめ、ひと思いに引き抜いていた。大量の返り血が海鳥に降りかかる。それでなくても、床の上は既に真っ赤に染まっている。
 鮮血に海鳥は思わず顔を覆い──そして腕の隙間から、信じられない光景を目撃した・・・・・・・・・・・・・
 ──血液が・・・逆流していく・・・・・・
 でたらめちゃんの腹部からあふれ出した大量の鮮血が、まるで時間を巻き戻すように、彼女の体内へと戻っていくのだ。床から赤い染みが消える。海鳥の身体を真っ赤に染めていた返り血さえも、たちまちの内に剥がれ落ちてしまっていた。
「……え? え?」
「──この通り」
 そうして『元通り』になったでたらめちゃんは、今度こそ完璧な笑みを浮かべて言うのだった。「私は人間じゃないのです。人間の世界の常識なんて、私には一つも通用しません。だから警察とか呼ばれても、意味ないですね」
「…………」
 いよいよ海鳥は、腰を抜かして動けなくなった。

BOOK

海鳥東月の『でたらめ』な事情

海鳥東月の『でたらめ』な事情3

両生類かえる

甘城なつき

ISBN:9784046817495

「ちょっと感慨に耽っていただけ……私の部屋も、随分賑やかになったな~って」
夏休み最初の日、海鳥の部屋で開催されたお好み焼きパーティー。しかしそれは、やはり奇妙奇天烈な事象の入り口に過ぎなかった。
焼きそばと白ごはんのおかげで、現状が相当ヤバいことに気づいた海鳥たちは、すぐさま対策を練り始める。それは具体的には、でたらめちゃんの動画配信と、夏祭りへの出店準備だった。
兵庫県、ご当地グルメ、里帰り、そうめんを啜るお嬢様、服をちゃんと脱がない筆記用具、海鳥と奈良のはじめての××……そして遂に現れる、『あの男』。
奇妙奇天烈青春ストーリー、いつの間にやら夏休みな、第三弾!

海鳥東月の『でたらめ』な事情

海鳥東月の『でたらめ』な事情2

両生類かえる

甘城なつき

ISBN:9784046813640

《こ、こちら海鳥東月さんのお電話で、間違いないでしょうか……?》
五月三日、ゴールデンウィークのど真ん中。バイト帰りの海鳥の携帯に謎の非通知設定の電話がかかってくる。
「……え? あの、どちら様ですか?」
戸惑う海鳥に対して、謎の少女は、予想外の正体を告げてきて?
一方その頃、天ぷらを作りつつ海鳥の帰宅を待つでたらめちゃんの身にも、思いもよらない魔の手が迫っていた……。
土葬、食品スーパー、中華料理、幼女、金髪お嬢様。
海鳥は果たして、『彼女』と『彼女』と協力し、第二の嘘殺しを成功させることが出来るのか? 
第17回MF文庫Jライトノベル新人賞〈最優秀〉作、奇妙奇天烈青春ストーリー第二弾!

海鳥東月の『でたらめ』な事情

海鳥東月の『でたらめ』な事情

両生類かえる

甘城なつき

ISBN:9784046809124

「財布? 携帯? ぜんぜん違うよ。私が盗まれたのは――鉛筆さ」
仲良しのクラスの女子・奈良芳乃から突如、謎の相談を受けた海鳥東月。だがそれは奇妙奇天烈な事象の始まりに過ぎなかった。
海鳥の自宅に現れた謎のネコミミパーカー『でたらめちゃん』。
彼女によって引き起こされるトイレの貸し借り、裏切り、脅迫、掴み合いからの一転攻勢、そして全力の命乞い……全てを終えた後、でたらめちゃんは海鳥に告げてくる。
「海鳥さん。私と一緒に、嘘を殺してくれませんか?」
海鳥は訳も分からぬまま、嘘殺しに協力することになり!?
第17回MF文庫Jライトノベル新人賞〈最優秀賞〉作は奇妙奇天烈、だけど青春ストーリー?

17th MF BUNKO J LIGHT NOVEL ROOKIE AWARD WINNERS