インタビュー 第9回
志瑞祐
第4回 佳作 受賞
ずっと純粋に創作のことを考えていられる時間は貴重

仲間うちだけではなく、より広く読者に届けたい
僕の場合、MF文庫Jライトノベル新人賞に投稿したきっかけは、評価シート目当てでした。あの当時、評価シート制度を導入していたのはMFだけで、編集さんのアドバイスを貰いながら、デビューできたらいいなーとぼんやり考えていました。あとは、まだ若いレーベルだったので、新人の活躍する余地がありそうだな、と思ったのも理由の一つです。
投稿者時代に一番心がけていたのは、読者の方に楽しんでもらうこと、です。デビュー当時も今も、その原点は変わっていないです。ただ、デビュー前は、対象とする読者が身近な人(創作ゼミの先生や仲間)だったのに比べ、プロになってからは、より広い読者を想定して書くようになりました。マニアックな内輪ネタなどは、うまくいけば深く刺さる反面、少数の読者の方にしか届かないことも多く、そのバランスにはいまも悩みます。
絵に描いたようなだめだめな生活だったけど……
小説を書き始めたのは、大学で文芸創作のゼミを専攻してからでした。当時はデビュー作のコメディとは全くジャンルの異なる、SFとホラーばかり書いていた気がします。初めて書いた小説が褒められたのが思いのほか嬉しくて、いつか本を書きたいなと思うようになりました。その後は就職が決まらないまま大学を卒業してしまい、約二年ほどは、本を読んだり、ゲームをしたり、アルバイトをしたりと、絵に描いたようなだめだめな生活を送りました。ただ、その間にも、映画やアニメのシナリオの勉強をしたり、尊敬する作家先生のアシスタント制度に参加したりと、小説に関わることをする時間は多かったと思います。あの頃に読んだ本や、勉強したことは、いま仕事を続ける上で大きなバックボーンになっています。
そんな投稿時代は実はとても楽しかったです。将来の展望なんてなにも見えないし、はたから見れば完全にだめな人でしたが、ただひたむきに、ずっと純粋に創作のことを考えていられる時間というのは、いま振り返れば本当に貴重なものだったのだと思います。
受賞=就職できた!?
新人賞を受賞したときは、それはもうめちゃくちゃ嬉しかったです。なんというか、やっと就職できたと思いました。同時に、プロになる実力が付いてないうちにデビューしてしまっていいのだろうか、すごい才能のひしめくこの世界でやっていけるのだろうか、三ヶ月に一冊とか絶対無理だー、とか、本当に不安だらけでした。……でも大丈夫、頼りになる編集さんがついていれば、意外となんとかなります!
デビュー作はもともと児童文学として書いた作品なので、ネタなどをライトノベル的に手直しするのに苦労しました。そしてなにより、プロの厳しさを思い知ったのは、とにかく改稿と〆切でした。それまでは短編一本書くのに数週間以上かかっていたので、刊行ペースの平均といわれる三ヶ月に一冊ペースについていくのがきつかったです。最初の担当さんは現在他レーベルで活躍しておられますが、あのときかけたご迷惑の数々を思い返すと本当に足を向けて眠れません……! ときには原稿が全没(一冊まるまる無駄になる)ということもありましたが、いまではなにもかもがいい思い出です(遠い目)。
『精霊使いの剣舞』アニメ化で、ドルイドさんも……!
デビュー作『やってきたよ、ドルイドさん!』の発売直後は、売れ行きが気になって気になって、地元近くの町田の書店を徘徊していました。あと、当時は書店でアルバイトしていたので、店のシステムで在庫を逐一チェックしたり、自分でPOPを書いたりしてました。
『やってきたよ、ドルイドさん!』は本当に大好きな作品で、いまでもたまに読み返しては、初心を思い出しています。いろいろと拙い作品ではありますが、やはりデビュー作というのは変なエネルギーが凝縮されている気がします。絶叫さんのイラストと里見英樹さんの装丁も素晴らしく、『精霊使いの剣舞』のアニメにドルイドさんが出て、喋ったときは感無量でした。
作品への取り組み方は、今も昔も本質的には変わっていません。ただ、今のほうが、より広い範囲の読者を意識するようになったと思います。
ジャンルや流行は関係なく、面白いものなら評価!
MFといえば可愛い女の子!萌え!みたいなイメージがあると思いますが、過去の新人賞受賞作を見ていると、かなりバラエティに富んだ、尖った作品が多く受賞しています。ジャンルとか流行は関係なく、面白いものは評価する、というスタンスだと思うので、その熱い思いを原稿にぶつけて、ぜひ送ってきてください。お待ちしております。
志瑞祐(しみず・ゆう)
2008年、第4回MF文庫Jライトノベル新人賞にて『やってきたよ、ドルイドさん!』で佳作を受賞し、デビュー。シリーズ3作目の『精霊使いの剣舞(ブレイドダンス)』で大ブレイク。第11回より、MF文庫Jライトノベル新人賞の審査員を務める。
