結果発表

インタビュー 第5回

あさのハジメ

第5回 最優秀賞 受賞

いつだってチャンスが来たら自分の手で掴まなくちゃいけない

俺の小説の長所はバンドの曲が登場することだけ……!?

初めは別のレーベルの新人賞に投稿しようと思っていたのですが、色々あってその〆切りをぶっちしてしまって、途方に暮れていたときにMF文庫Jライトノベル新人賞が年四回審査をしていることを知って投稿して……はい、のっけからこんな感じですみません。

恥ずかしながら、当時の僕は自分の実力を確かめたいという願望ばかりが先走っていて、どこに投稿するかはあまり重要視していませんでした。なので、割とすぐに結果がわかって、評価シートがもらえるところに惹かれたんだと思います。

投稿をした数ヶ月後に編集さんからお電話をいただいて、そのときに「きみが書いた話は小説としてまったくなりたってない!」みたいなアドバイスをいただきまして。

ですが、投稿作の中に好きなバンドの曲名を出していたら、「俺もそのバンド好きだから、これから一緒に作品を創っていこうぜ!」みたいな感じでその編集さんが担当についてくださることになりました。……実話です! 当時はノリのいい編集さんに感謝しつつも、「俺の小説の長所はバンドの曲が登場することだけなのか……」とよくわからない落ち込み方をした気がします。

とはいえ、幸運にも担当さんがついてくださることになったので、投稿者時代は「自分が面白いと思う物語を担当さん――自分以外の誰かに評価してもらいたい。そのためにはどんな風に原稿を書けばいいか?」ということを意識していました。

現実を思い知らされた担当からの一言

当時は大学三年生。担当さんがついてくださったことで「これでデビューできる!」と有頂天になったのですが、担当さんに「ぶっちゃけ、デビュー前に担当編集がつく投稿者って割といるし、担当がついてもデビューできない人も多いよ。だからがんばっていこう!」と現実を知らされて、浮かれた気分はふき飛びました。

これは中途半端な気持ちでやってたらダメだ! ということで、一念発起。それまでやっていたバイトを全部やめて執筆作業に集中することに。

バイトをやめたせいで預金通帳のHPが見る見る減っていきました。タダで使える大学のパソコン室に入り浸って、投稿作を書く日々。

衣食住の方も残念なことになっていましたが、執筆作業のモチベーションだけは高かったです。自分が書いた作品についてプロの編集者の方がアドバイスをしてくださることが、とにかく楽しくてたまらなかった。それは今でも変わりません。

……やるっきゃない、潰れてたまるか!

当時は毎日投稿作を書いていましたが、いつまでもこんなことを続けられないとも思っていました。

もちろん金銭的な問題もありましたが、そのころはリーマンショックによる就職氷河期の真っただ中。執筆作業ばかりしているので就職活動はまったくしていない。何より担当さんについてもらっているのに結果を出せないんじゃ自分に大した才能はない。このままじゃニートという名の自宅警備業へとまっしぐら!

なので、受賞の連絡をいただいたときはメチャクチャうれしかったです。

受賞して喜んだのはよかったのですが、そこからが大変でした。

今でも忘れられないのは、受賞が決まった後での『まよチキ! ~迷える執事とチキンな俺と~』の改稿作業。パソコンの前に座ると「受賞できたけど、つまりそれはスタート地点に立っただけ」「もう後戻りはできない」「本当にプロとしてやっていけるのか?」というプレッシャーでガクガク震えていました。

これがプロになるってことか……! なんて青くさいことを思ったりもして。でも、そのとき担当さんから「潰れんなよ!」と発破をかけていただいたことでいろいろふっ切ることができたというか、むしろ闘志が沸いてきました。

……やるっきゃない、潰れてたまるか! みたいな感じで。

ぶっちゃけ受賞が決まったときよりもうれしかったこと

受賞作が発売されたのは十一月でしたが、感動を噛みしめている余裕はあまりありませんでした。なぜかというと、そのころ担当さんから「『まよチキ!』二巻は二月発売予定だったけど、色々あって一月発売の枠が一つ空いたから、二巻の発売を一ヵ月早めよう! そっちの方が勢いがある!」という連絡をいただいて、執筆作業に追われていて……。

これがプロになるってことか……! 第二弾の到来でした。

ですが、いつだってチャンスが来たら自分の手で掴まなくちゃいけない。一度逃したチャンスがまたやってくる保証なんてないわけで、そういう意味ではすごく鍛えられた気がします。

『まよチキ!』を書いた理由は、ずっとボーイッシュなヒロインが書きたかったからです。ボーイッシュなヒロインが活躍する面白い作品を書くにはどうすればいいのか? 当時はそのことばかり考えていました。

そして、辿り着いたのが男装ヒロインラブコメ。なので、デビューが決まった後に初めてヒロインのイラストを見せていただいたときは、ぶっちゃけ受賞が決まったときよりもうれしかったです。

本を出すことで実感したのは、ライトノベルはチームプレイで創るということ。作品に関わってくださっている方々のすさまじい仕事ぶりを目のあたりにする度に、「こっちも負けてられねえ!」みたいな感じでモチベーションが上がるので、とてもありがたいです。

デビューへの近道を駆け抜ける方法

MF文庫Jの新人賞も僕が投稿していたころとは変わったことがあります。いま新人賞のホームページを見たら、「佳作受賞者だけでなく、三次通過者は担当編集が付き受賞に向けて全面バックアップ!」というなんだかよさげなフレーズが!

……いえ、こう書くと「オイオイ宣伝じゃねーか編集部からいくらもらったあさの!?」と思われるかもしれませんが、三次さえ突破すれば担当さんについてもらえる。もし三次を突破できなくても、作品を気に入った編集さんが担当についてくれるかもしれません。

もちろんときには衝突することもありますが、仕事ができる編集さんと一緒に物語を創るのはメチャクチャ面白いし、レベルアップにつながるはず!

なので、デビューへの近道を担当さんとの二人三脚で駆け抜けるのもいいんじゃないか、と個人的には思います。

あさのハジメ(あさの・はじめ)

2009年、第5回MF文庫Jライトノベル新人賞にて、レーベル初の最優秀賞を『まよチキ! ~迷える執事とチキンな俺と~』で受賞しデビュー。同作で瞬く間にブレイクを果たし、TVアニメなどのメディアミックス、並びに現在まで数多くの作品を執筆。近作に『Classroom☆Crisis あなざーくらいしす』『ライフアライヴ!』(共にMF文庫J)など。第9回・第10回MF文庫Jライトノベル新人賞にて審査員を務める。