結果発表

インタビュー 第7回

葉村 哲

第4回 佳作 受賞

生活には起伏がないけれど、精神には起伏がたっぷり

何よりも自分を甘やかすことが大事

フハハハハハ、そう、我こそが嵐の夜に生まれし(中略)なる者。
二度の千年紀を越え幾年、暗黒の信徒を選びし四度目の暗黒儀式にて新たなる暗黒の外套を纏い暗黒魔道を歩む契機となったのは……む、何だ担当よ、我輩の暗黒賛歌を…………今回はそういうのじゃないから普通にやってくれ? あと暗黒を使いすぎ? オーケーオーケー暗黒オーケー。

私の場合はまず投稿原稿を書き上げ、それから応募先を探し始めたのでちょっと現金な話になるのですが、『結果が早く出る』のと『評価シートが貰える』点がMF文庫Jライトノベル新人賞に応募したきっかけですね。

デビューどうこう以前にまず、自分の書いた小説がどう思われるのか知りたかった。今では珍しくもないかもしれませんが、当時だと投稿者全員に評価シートが返ってくるのはMF文庫Jぐらいでした。

しかも年に四度締め切りがあり、応募して数ヶ月と結果が出るのも早い。

「こりゃいいや」と思って、当時何も知らなかった私はホイホイとMF文庫Jに投稿したわけです。

投稿時代に心掛けていたのは、まず、毎日こつこつ書いて、最後までやり抜くことです。そして何よりも自分を甘やかすことです。

一日十ページとかノルマを決めて頑張らない、調子が悪いから数行でも良いやと自分を甘やかしつつ、少しずつでも前に進めるようにする。

そうすれば必ず最後まで辿り着きます。

たとえ途中で「これつまらないんじゃない?」と思っても大丈夫。

書いてる最中が辛いのは当たり前です。

でも書きあがったものを読み返せば絶対面白い、むしろ自分は天才なんじゃないかと思うぐらい面白い、面白くないはずがない。

わかりますね、これが自分を甘やかすということです。

小さな躓きとそれを解決した瞬間の我輩最高感

人付き合いが悪くて面倒くさがりで趣味が読書ぐらいしかない、そういう人間がふと「小説を書いてみるか」と思った。

大体想像つくと思いますが、起きて仕事して帰って本を読んで小説を書いて寝てを繰り返す、何の起伏もない生活をしていましたね。

当時は、というか、今もあまり変わってませんが。

苦しくて同時に楽しかったのは、それはもう小説を書いてる最中と書き上げた瞬間です。一冊を完結させたときは無論ですが、「展開に詰まった」「何か違うんじゃないか」「気の効いた台詞が出てこない」こういう小さな躓きと、それを解決した瞬間の我輩最高感。

生活には起伏がないけれど、精神には起伏がたっぷりです。

こちとら無知には自信がありますからね

新人賞を受賞したときは、実感がありませんでしたね。受賞の電話を貰った時も「……はあ?」みたいな態度だったので、当時の担当さんに「こちら、葉村さんの番号で間違いないですよね?」と確認されたぐらいです。

その数日後、山のような赤(直しの指示)が入った原稿が送られてきて受賞したのだと実感が湧きました。

もはや赤くない部分を探すほうが難しいぐらいに赤かったです。

当時の担当さんには大変根気強く付き合ってもらったのを感謝しています。

こちとら無知には自信がありますからね、小説としての体裁を整える為の最低限の文章作法ぐらいしか知らずに小説を書いたので、原稿に書かれた赤の意味がわからない。

担当さんが何を問題にしているのかわからない、プロットとか聞いたこともないし、小説の基本的な構造と構成がと言われてもぴんと来ない。

同じ日本語を使っているはずなのに話が通じない。

幸い、私は受賞が早かった(年四度の締め切りがあり、その第一期で受賞した)ので約一年、ひたすら原稿と戦いながら相互理解を深めて行く日々でした。

まさに一仕事やり終えた感覚……!

受賞作が発売された日、一日かけて行ける範囲の本屋は全て回り、売り場で自分の本を見つけては感動していました。

まさに一仕事やり終えた感覚です。

あまり関係ありませんが、受賞作につけられる金ピカの帯を見て「格好良いけど(帯に書いてある文章)読み辛っ!」と思ったのを覚えています。

受賞作は好きなものをひたすらに詰め込みました。

読者の存在をまだ意識出来ない頃でしたから、それしか方法が思いつかなかったとも言えます。

出版にあたり担当編集さんがそこから「これはやりすぎ」「これはやらなすぎ」と極端な部分を削ぎ取り、私を調教もとい教育することで完成しました。

吾輩もなんだかんだでしぶとく生き残ってるからね!

寄らば大樹の陰! ようこそ天下のKADOKAWAのMF文庫Jへ! 一年四作三ヶ月ごとの投稿ペースに慣れていればデビュー後も安心!

締め切りより恐ろしい担当さんからの原稿催促攻撃を受けなくてすむぞ!

他の新人賞のこともよくわからないから印象になっちゃうけど、面倒見が良かったしデビュー後もわりとチャンス貰えましたよ!

そのおかげで、我輩もなんだかんだでしぶとく生き残ってるからね!

暗黒生き残ってるからね!

追伸、多分このインタビューが掲載される前後に新刊(未だタイトル定まらず)出てるから漆黒の闇によろしく!

葉村 哲(はむら・てつ)

2008年第4回MF文庫Jライトノベル新人賞佳作を受賞し、『この広い世界にふたりぼっち』でデビュー。代表作の『おれと一乃のゲーム同好会活動日誌』『バロックナイト』にて、メディア展開多数。2016年春に待望の新作が始動!