インタビュー 第9回
おかざき登
第4回 審査員特別賞 受賞
とにかく書きまくりましょう!

トライ&エラーで次の応募作へ
投稿のきっかけは、若い頃に一度ラノベ作家を夢見たものの、諦めて何年かダラダラ働き、色々あって「やっぱ小説書かない自分って自分じゃないんじゃないか」と思って気合いを入れ直し、再挑戦することにしました。探した応募先の中で当時は唯一「応募者全員に評価シートを送付する」ということをしていたので、評価シート目当てでMF文庫Jライトノベル新人賞に応募しました。年4回応募できるのも、毎回評価シートをもらえてラッキー、って感じでした。もらった評価シートの数にはちょっと自信があります(笑)。
投稿者時代は、とにかく評価シートでダメ出しされた部分の改善と、評価シートが届く前に「きっとここを指摘されるに違いない」という部分を洗い出して次作を書き始める、というトライ&エラーでした。幸い2回目の投稿で三次選考くらいまで行ったので、「この方法できっと実力は伸びている」と信じて繰り返しました。そこからずいぶん時間がかかりましたが、その間でずいぶん地力は鍛えられたと思っています。
投稿が年単位の長丁場になったら……
当時の生活状況は夜勤(笑)。
清掃員として夜間働いて、朝帰ってお昼くらいまで小説を書き、寝て夕方に起きて夜勤に行く準備をしつつ少し小説を書き、夜仕事に行く……そして休みの日にガッと気合いを入れて小説を書く、という生活でした。
私の職場は「基本残業がない」「基本休日出勤もない」という環境で、かつ一定の収入があって生活費や資料などの必要経費にかけるお金も捻出できる、というのはありがたかったです。投稿は年単位の長丁場になることもありうるので、しっかり生活の基盤を作っておくことも大切だと思います。その職場ではデビュー後も何年か働いていましたが、きちんと私のもう一つの仕事を理解してもらっていたので、「この日〆切なんで、それまでに何日か有給もらっていいっすか」みたいなお願いをしていました。
やはり、惜しいところまで行きながらなかなか受賞できなかったことは苦しかった気がします。くそ、またダメか……! と何度思ったことか(笑)。
でも、小説を書くこと自体は当時も今も楽しいので、良い思い出です。
当時から、面白そうな設定を思いついたり、気に入った表現ができた瞬間は「よしっ!」ってなって楽しいです。
「ここがセールスポイントです」と言える?
受賞の瞬間は、私の場合はメールで教えて頂き、それを見てすごく舞い上がった記憶があるのですが、初代の担当さんからは「なんかすっごい淡々とした返事が返ってきて、『うわー、おかざきさん超冷静じゃん』って思った」と言われました。
なんでそんな見解の相違が生まれたのでしょうか。嬉しくないわけないでしょ!(笑)
初代の担当さんには本当に色々なことを教えて頂きました。これはデビュー作の話ではないのですが、プロットを出したとき「この話の『売り』はなんですか?」と厳しめに訊かれたことはすごく鮮烈に覚えています。売り物である以上、作り手が「ここがセールスポイントです」と胸を張って言えなければならないのだ、という、それまで感覚でやっていたことを『キッチリ意識してやりなさい』と教わった瞬間でした。
今でも、それは第一に考えるようにしている教えです。
例えば、『この部室は帰宅しない部が占拠しました。』のプロットでは、一行目に「部室で同居なラブコメディ」と書き入れました。これは帯にも使われたフレーズですが、「この作品ではこれを楽しんで頂きます」という決意表明でもありました。
突き抜け感は「ぶっとび感」
今でもそうですが、やはり「本」という形になったものを見るのは感慨深いです。初めてとなれば、感動ものです。
しかし、同時に「続きを書かなければ」というプレッシャーも同じくらいありました。何しろ、投稿時にはやってこなかったことですから、手探り状態でかなり苦戦した記憶があります。
まあ、それでも、嬉しさの方が遥かに大きかったですが。
受賞作のこだわりはドラゴンです。ドラゴン大好きー。
今でも、「悪の秘密結社なのに良いことしかできない」って発想はよく思いついたもんだ、と自分を褒めてあげたいです。
しかし、反面、もっと私が上手ければもっともっと面白くできるポテンシャルはあったと思っているので、我が子ながら申し訳ないことをしたなあ、という気持ちもあります。
当時から、「突き抜け感が足りない」とはよく言われていました。自分でもそう思います。しかし、今までかかってもなかなか克服できなくて困っています。
突き抜け感は、「ぶっとび感」と言い換えてもいいかもしれません。どうしても、「話を上手くまとめるにはどうするべきか」を先に考えてしまい、コンパクトにまとまってはっちゃけきれないんですね。もっと後先考えず「なんじゃそりゃ!?」と思わせるキャラだったり設定だったり物語を作っていきたいものです。
前述の『帰宅しない部』では「かなりぶっ飛んだ設定を思いついた!」という自負はあったものの、「この設定をもっとぶっ飛んだ方向に投げ飛ばすストーリーの組み方もあったのではないか」という自問は今もあります。
これしかないレベルアップの道
今も頑張っている投稿者へ伝えられることは、とにかく書くことです。最後まで書く。そして、手早く反省点をまとめて、それを踏まえて次を書く。地道にこれを繰り返すしか、レベルアップの道はありません。
そのサイクルに、MF文庫Jライトノベル新人賞の年4回募集はかなり適しています。プロの刊行ペースでもあります。
あと、評価シートが来るということは、確実に一人はその作品を読んでくれるということです。そう考えると、書き上げた自作に対しても「きっとここは指摘される」という客観視が出来るようになります。そうなったらしめたものです。評価シートを待たずに次に取りかかりましょう。評価シートは、届いてから目を通して考えてもいいんです。
とにかく、一作仕上げるごとに確実に実力はついていきます。書きまくりましょう。
今は投稿サイトとかで腕試ししたり感想をもらうこともできますから、どんどん併用して書いていくといいと思います。
書かずに夢だけ持っていたって何も始まりませんから。
おかざき登(おかざき・のぼる)
2008年、『二人で始める世界征服』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞審査員特別賞を受賞してデビュー。第三作『この部室は帰宅しない部が占拠しました。』がドラマCD、コミック、PSP用ゲームソフトなどメディア展開多数。近作に『さて、異世界(ゲームガルド)を攻略しようか。』『姫さま、世界滅ぶからご飯食べ行きますよ!』など。
