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『5時間目』巻末収録『あんさんぶるスターズ!』の日日日先生による激烈!!作品解説 全文掲載!「先生は幼女――じゃなくて信念という一振りの剣を掲げて、傷つきながら戦い抜いてきたんでしょう。」

 寝た子を起こしてしまった。
 ずっとそれを後悔しています。

 こんにちは。日日日です。
 むか〜しMF文庫Jで編集長特別賞をいただきデビューして、本も十五冊ぐらい出版してもらい、その御縁で同レーベルの新人賞における審査員も務めました。
 さがら総先生が『変態王子と笑わない猫。』で最優秀賞を獲得された第六回MF文庫Jライトノベル新人賞の選考会においても、審査員の末席に座っておりました。
 というか「文章は面白いけど一冊の本としての完成度は……」「次回作とかで化けるタイプだと思う」「既存のフォーマットに合わないから売り方がわからない」「そもそも何だこのタイトル? ふざけてんの?」と紛糾しどことなく小馬鹿にするような雰囲気だった選考会で、「このひと確実に天才ですから!」と熱烈に『変態王子』をプッシュして最優秀賞に押し上げたのは僕なので、さがら先生は一生——恩に着てくださいね。
 印税の半分ぐらい日日日にくれてもいいんですよ。

 ともあれ。
 選考会でさんざんタイトル変えろ変えろと(主に日日日に)言われたわりにそのまんま『変態王子と笑わない猫。』で鮮烈なデビューを飾ったさがら先生のその後のご活躍については、今さら僕なんぞが語るまでもないでしょう。
 ぶっちゃけ、よく知りませんし……。ごめんなさい、アンテナ弱くて……。
 出版前、選考会などで懸念されていた点・不安視されていた点をすべて的確かつ華麗にクリアし(あのタイトルすらも『すごいセンス良い』的に受け入れられて!)、出版された本のすべてが大喝采をもって迎え入れられた先生のご活躍ぶりは遠目から見ても眩しすぎて、むかつきましたし(作家は基本的に売れてる同業者を憎んでいます)。
 それでも。主にずっと遠い異国のようなアプリ業界でお仕事してる僕の耳にも先生のご活躍ぶりが聞こえるぐらいでしたから、先生には芸術と勝利の女神が微笑み続けていたのでしょう。誰もが夢見る、シンデレラストーリーを体現し続けていたのでしょう。
 もちろん。辛いこと、苦しいこともたくさんあったのだろうと思います。
 それは本作、『教え子に脅迫されるのは犯罪ですか?』を読めば(しかし相変わらずタイトルが良くも悪くもヒドいな! 天才め……!)、これでもかと行間から悲喜交々がにじみでてますので、いつまでもタイトルという上っ面にこだわる僕のような読解力の足りない人間にも推測できます。大変だったんだねぇ、先生……。可哀想……。生きていくのがしんどくなったら、いつでもアプリ業界に逃げてきてもいいんですよ……こっちの水は甘いぞ……。その際は持参金も忘れずにね……。
 みたいな、信用ならない魑魅魍魎のようなのばかりが蠢く業界を、先生は幼女——じゃなくて信念という一振りの剣を掲げて、傷つきながら戦い抜いてきたんでしょう。
 先生は稀代の英雄です。天才です、今でも確信をこめてそう断言できます。
 同じ道を歩いていたはずなのに、とっくの昔に追い抜かれ、迷子になってなぜか今は遠い異国で暮らしている僕にとって、そんな先生の出生に立ち会えたことは生涯の誇りです。この子を世に出せて良かった、この子が救世主だ……変な名前だけど(まだ言う)。

 余談ですが。
 まだ日日日がラノベの国で暮らしていたころ、先生とは他の作家さん数名と一緒に海外旅行をしたことがあります。先生と僕は同室で、ひとつ屋根の下で夜を過ごしました。
 まぁ何もなかったんですが(何かあっても困りますが)、早朝、先に目覚めた僕が独りで朝ご飯に行くのも寂しくて、先生を起こそうとした際の会話が忘れられません。
日日日「さがらさん、朝ですよ。ごはん行きましょう」
さがら先生「……。……。……。……あぁ? うるせぇ殺すぞ」
 お互いの発言はやや誇張していますが、おおむねそのような遣り取りをしました。
 あれれ? 僕、同い年だけど作家としては先輩ですよ? さがら先生がデビューした際の審査員ですよ? あなたを熱烈にプッシュして、えっ、何……殺すぞって言った?
 さがら先生、寝起きはめちゃくちゃ不機嫌でマジ怖い……! ごめんね、まだ眠かったよね? 悪いことしたね、朝ご飯は独りで行くね……?
 あれ以来、僕は先生のことを『先生』呼ばわりしているわけです。おわかりですね。
 寝た子を起こしてしまった。ずっと後悔しています。
 けれど。
 さがら総という才能を、日日日に与えたトラウマなど帳消しにして余りあるどころか世界を覆い尽くすほどの夢と希望と感動を振りまく作家を見いだし、応援し、すこしでも後押しをしてこの世に送りだせたことは——。
 それまでは独り占めにしていたはずの己の頭のなかみを、目覚めて文字にして、世界中のひとへ伝える作家にする一助となれたことは——決して後悔しません。
 さがら先生。
 おおきな段ボール箱から出てきたあなたの応募原稿、その文章を一目見た瞬間から、日日日はずっとあなたの大ファンです。

日日日

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